すきなひと | Chiffon+

すきなひと

「先輩ってさ、髪きれいっスよね」
「何をたくらんでるのでござるか」
いうが早いか、即答で俺の言葉はばっさり切られた。「はぐらかすなよ。何照れてんの?うわー先輩かわいい」
先輩の髪はすいた指からさらりとこぼれた。手触りを楽しむにはちと短い。
「てっ……照れてない」
それでも物足りなさは別にない。いま少し憎らしげに睨まれているけれど、悪いとも思わない。
大体本気の目じゃないことくらい判るし。これはただの子供の拗ねたような顔だ。
それをかわいいと言ったらまた怒るだろうな。
「先輩かわいいー」
だったら言うしかないだろう。
「かわいくない!」
嫌がることがわかっているのだから。
「髪がきれいとかかわいいとか、全然誉め言葉じゃない」
第一君が僕を誉めるわけがない、そう呟いた先輩を見て、俺の日頃の行いの悪さを思い、笑いそうになる。
「最低だね、とまでは言わないけど」
そう言っていることも、触れられている手を払いのけないのも、言葉にしない何かだ。
「僕からしたら君も充分かわいいよ」
「は?」
先輩はクスクス笑っている。
「何だかんだでかまってほしいみたいだよ。あんまり自分で気づいてないかもしれないけど」
「ねーよ」
吐き捨
ててはみたけれど、目がそらせない。先輩なんかに動揺させられるなんてあり得ない。
「全体的に嫌な子だけど、そういう所、僕は好きだよ」
「そうかよ」
くやしいけれど今はこれ以上何も言えない。

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