わかば | Chiffon+

わかば

芝生に座って、一人きり。楽しそうな周りの声は他人事。特にさみしくなんかはない。
見上げた空は青い、風はあたたかいし、うららかな日差しに花も咲く。ほんの少し眠くなる。
「相変わらずぼっちっスね」
その声に振り替えれば、せせら笑うように彼がいる。近頃では会えば何となく挨拶をするようになっていた。まあそれは僕だけで、彼の方は反応がまちまちだけれども。
「君だって一人じゃない」
「今はな。先輩はいつもじゃねえか」
彼はこんな人なのに友達がいないわけではない。でも僕だってここにいないだけで友達はいる。多分。
「最近は何やってんの?」
彼は隣に座って凝り固まっているのか肩を回した。片手に持っていたペットボトルのふたを開ける。
「いや、変わんねっスよ」
ひとくち飲んでがりがりと頭をかいた。
こうして話すのは実は久しぶりだ。色々とお互いに忙しくて、しばらく会っていなかった。通りすがりに見かけるくらいで。
芝生に無造作に投げ出された手をちらりと見た。大丈夫まだ気づかれていない。
「痩せたのではないでござらぬか?」
できるだけの平静を装いながら、心配をする。
「さあな。どうだか」
少し疲れたかな、と推し量る。自分で言ったりしてこな
いから、聞いても正しくなんて答えてくれないから。
もう少しくらい甘えてくれても構わないのに、と思いながら、自分の心を飲み込んだ。
「何だよ、さみしくなっちゃったとか?」
笑う仕草が苛立たしい。
「別にさみしがる理由がないでござる」
そうかよ、と言って彼は黙る。けれど隣にいる。
風が芝生を撫でて木を鳴らして、どこかから花びらを乗せてくる。
「あ、先輩、髪にバッタ付いてるっスよ」
「え、何で?」
あわてて頭を探る僕を笑って彼が手を伸ばした。
「違った。草だった」
指がほんの少し髪に触れて草を払う。そのまま髪をすくように手は触れている。
「忙しい?」
ほんの少しいたたまれなくて、でも少し嬉しい。
「いや別に」
当たり障りのないことしか言えないのがもどかしい。本当に言いたいのはこれじゃない。
「先輩は相変わらずヒマなんだろ?」
「君が言うほどヒマじゃないよ」
ああそう、とあくびをしながら気のない返事。髪をさわっていた手が離れる。さみしくないと思い込む。
不意に彼が倒れた。
「眠い」
僕の膝の上に。
「ちょ、ちょっと、こんなところで何を……」
完全に寝る体勢の彼はまた笑う。
「いいんだよ、今さらだし」
言ったが早い寝息が
聞こえはじめて僕は今さら文句も言えなくなっていた。僕の都合はお構いなしなんだね、とは言うまい。そもそも言う気はない。
「今さらなら、僕もぐるぐる考えたりしなくていいのかな」
本当に眠っているのか、どうなのか。
もうそんなことはいいか。
日差しも風もあたたかい。でもまだ春先。風邪をひいたりしないか少し心配をしながらも、起こすのを躊躇っていた。
今はただこの距離に甘えていたい。

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