指先 | Chiffon+

指先

>彼の指先はいつも冷たい。
姿勢が悪くて不健康なせいかもしれないし、いつもキーボードを叩くせいかもしれない。
「休憩ー」
そう言いながらいそいそと、ラボで彼の仕事をする様を眺めていた僕に近づく気配。
冷たい手が後ろから僕を抱き締めて大きく息を吐いた。
僕は服の脇から入ってきた手の冷たさに身を固くした。熱を探すように手は僕をくすぐり撫でる。
平常心を保とうなんて気持ちは最早なくされるがままにもてあそばれている。
僕は彼のことを愛しているし、彼も僕を好いてくれている。思いは言葉として告げられた。だからもう威厳や意地で気持ちを否定しなくてもいい。
「くすぐったいよ、クルル君」
さざ波のような笑い声と彼の低い声。
「感じちゃった?」
やーい先輩のえっちーなどと軽口を耳元で。
彼の手に冷やされた体がじくじくと熱を持つ。
彼の方へ顔を向けると、
どちらからともなく唇を重ね舌を絡めた。ざらりとした感覚を楽しみながら、僕は目を閉じる。
僕のことを忘れない、意地悪で嫌味な年下の恋人。
僕の熱で温められる彼の手。
移り始める体温。
切なくなる体をもて余す。
ニヤニヤ笑いの彼がいう。
「どうしてほしいか言ってごらん?」
僕は唾を飲み込んで、次の言葉を紡ぐ。
「甘やかして」
器用なその指先で、手のひらで。どうか僕にもっと触れてほしい。

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