いつかまた | Chiffon+

いつかまた

落下する感覚で目をさました。じわりと嫌な汗をかいていた。
恐る恐る隣を見れば彼は眠っていた。起こさなくてよかった、安堵した。
少し身を起こしたまま、静かな寝息を聞いていた。暗い寝床で普段あまり触れない彼の髪にさわる。
こうしてただとなりで眠るだけのことができるようになったのはいつだっただろう。
僕にはわからない仕事で疲れた彼を無理矢理休ませたのがきっかけだっただろうか。
眠くない、まだ続ける、という彼に。
そこまで思い出して恥ずかしくなる。
一緒に眠りたいな、と言い出したのは僕の方だ。そう言ったからには多少の何かは覚悟の上だったのに、あの時彼は、仕方ないと言いながら、渋々という様子で僕を抱き枕か何かのようにして眠った。
少しだけ肩透かしを食らったような気分になっていた。別に期待はずれというわけではないけれど。

彼が何か寝言を言っている。
僕は色々思い出している。悪夢をみたような気がする。
また横になって狭い中で考える。闇に慣れた目で寝顔を見ていた。眠っていれば本当に、人のよってきそうな感じなのにな。
そんなことを思っては、こんな性格でよかったのかもと思う。そしてそんな風に思う自分がどれだけ彼が好きなのか見にしみて少し驚く。嫌だなあとも思う。
「…先輩」
でも少し幸せな気もする。
身を寄せて、手をとって、僕は少しだけ笑った。
「人が寝てると思って勝手に甘えてんじゃネェよ」
予想外の声に思わず身を固くした。手を離す。飛び退きそうになったけれど狭くてできない。
「起きてたの?」
「さあねェ」
声がにやついている。
「気づかないとは……まだまだ拙者も修行不足でござるな」
「関係ねえだろ」
安堵しきっていた。それは致命的なのかもしれないけれど、ここにいるのが誰でもなく彼であるなら、それも幸せなことなのではないかと思った。
「ねえクルル君」
面倒くさそうな返事、のような声がした。もう一度身を寄せれば、抱きすくめられる。
声の調子と行動が噛み合っていない。
「悪い夢でもみたのかよ」
腕の中でうなずいた。
「ま、先輩が悪夢見ようが俺には関係ねえ話だけどな」
だけど、と彼が話を続けた。
「何なら上書きしてやってもいいぜ?」
「どういうこと?」
ククッと笑って彼がささやいた。
「そ、それは心の準備とか、あとなんか色々覚悟とかいるから」
僕が慌てているのが面白いのか、彼は陰険な笑い声。
でもすぐに止んで、彼の手が僕の頭を撫でた。
「覚悟とかしてるときは言ってくれよ」
「……無理強いはしないんだね」
「趣味じゃねえだけだ。勘違いしてんじゃねえよ」

言葉とは裏腹なことが色々。
僕はほんの少しやましい気持ちになって、それを噛み殺した。

気づけば嫌な汗はひいていた。

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