かわいいひと | Chiffon+

かわいいひと

日々正直やりにくくて仕方がない。
「今、こっちの画面が暗くなったのでござるが」
時折来るこの人に振り回されるなんてあり得ない。
「自動省エネモードだよ、故障じゃねえよ」
できるだけ先輩の方を見ないで話す。
「省エネ……」
何の琴線に触れたのか言葉を反芻する。そしておそらく笑顔であろう声がする。
「エコでござるな!地球に優しい」
即座に言葉を遮った。
「別にそういう意図はネエよ」
少しイライラ。
「あ、うん、そうだよね……」
残念そうな声。今は多分しょんぼりしているに違いない。
気にせずに手を進める。
進める。進める。気にしない。
「でもこれは結果的には優しいから、クルル君がそういうことするのは何だか嬉しいなって」
進め
「お手軽っスね」
進められるか畜生!
悪態をつきながら認めたくない気持ちに負けた。
先輩を振り返る。かわいくないはずのかわいい目が、そうかな?と言っている。
「先輩何しに来たんスか」
ほんの少し頬を染めて。
「そばにいたかっただけ」
照れくさそうに微笑んだ。
それは反則だと思う。ルールなんかありはしないけど、今している作業がどうでもよくなる。
今すぐこの人をどうにかしたい。
くやしい気持ちは何
かに負ける。
「あ、ごめんね、邪魔なら」
帰る、と言いそうな先輩の口をふさぐ。
色々な思いをこめて。
大丈夫だ。俺は天才だから、今作業の手を止めても挽回できるしそもそも今急いでなどいない。
「唐突に何をするかと思えば!」
恥ずかしそうに責めたような口調になる先輩は、くやしいがかわいい。
「うるせえ、んなこと言ってるともう一回やっちまうぜ?」
ピタリと呼吸まで止まるように一瞬しんとした。
そして音が戻って先輩が真っ赤になる。
「あ、あの、えっと」
何かを言い淀む様が鬱陶しくて、俺はまた同じ事をした。
時々甘えにくる、先輩の扱いは少し面倒くさい。
この先を期待してしまうから。ありえないことに素直になりたくなるから。ああもうやりづらい。
先輩が俺の首に腕を回した。薄くとろんとした瞳が潤む。
この期待は今日裏切られるだろうか。きっとそれはないはずだ。
俺は今日も仕方ないふりで、それに応じる。

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