ただ答えを待つ | Chiffon+

ただ答えを待つ

「正直、クルル殿の気持ちが皆目理解できぬのでござる。個人的かつ関係のない話で申し訳ござらんが、打ち明ける人が、その、打ち明ける人がいなくて」
幼なじみの悩みくらい聞いてやりたいのは山々だが、生憎オレにもアイツの気持ちは分からない。どういう顔で今この話を聞いていればわからないまま、二人焚き火を囲んでいる。少し先でネコは寝ている。代わってくれネコ。代わりにこの幼なじみの話を聞いてくれ。多分お前ならにゃあとしか言わなくていいから。
「アイツの考えることなんざ誰にもわからんだろう。オレもわからん。わかりたくもない」
あんな奴大嫌いだと吐き捨てるとドロロはあわてたようにまくしたてた。
「でっ、でもね、本当の本当に性格がねじ曲がってるんじゃないと……あ、いやひねくれてるし根暗だし陰湿だし、もう散々な目にあわされてはいるんだけどね」
擁護したいのか、愚痴りたいのか、どっちなんだ。昔から知っていたはずのコイツの気持ちもよくわからない。この惑星に肩入れするところも、よく泣かされているのに、今こうして普通にしていられることも。
最もオレは相変わらず見ているだけだが。
「お前はどうしたいんだ」
「もうちょっと理解を深めて、できるこ
となら仲良くしたい」
アイツと? わざわざアイツと?
「しかし、奴がそんな馴れ合いを由とするとは到底思えないのだが」
思えば小隊、個人的な相談など特にしない間柄だらけだ。ケロロに相談などしても無駄だ。タママは若すぎる。クルルなど論外だ。特にケロロとクルルなんかはことをひっかき回すだけひっかきまわして遊ぶに違いない。
その点でドロロは話安いかもしれないが、考えが果てしなくずれている。それは常識的かつ模範的なのだが、だから年下の面倒見はいいのかもしれないが、うちの若いものはあんな感じだ。それにこいつは優しすぎる。一度仕事になれば静寂のうちに遂行してしまえるが、戦闘力も高いが、それが侵略に大きく生かされることはない。
「少しずつだけどね、側にいられるんだよ」
何よりわからないのは、あの根暗で陰湿でそのくせ悪知恵が働くそいつのことを、仕事の同僚以上に見ていることだ。あまり考えたくはないが、ひどい仕打ちをされるのが好きだったとする。それならケロロだって似たようなものだ。子供の頃過ごした時間を鑑みれば、そしてそういう性癖だとしたら、その感情がケロロに向いていた方が少なくとも俺はまだ納得できる。
「それから少しずつだけど気
持ちも伝わるよ。たまに甘えてもいいときがあるんだよ」
想像したくない。
「だったらいいではないか」
「でもわからないよ。そうしてくれることがあることがわからない。最初から冷たくしてくれたら、諦めもつくのに、わかるんだよ、好意が」
どこをどうしたらそうなるのだろう。オレにはやはりわからない。
「はじめから嫌われてたら、いや、泣かされるだけなら、そういう性格だからって納得も行くんだ。でもそうじゃない」
焼いていた芋が炭化している。勿体無い。が、今は話の方に関心が行く。
「要はお前はあいつが嫌いじゃないんだろう」
「うん。むしろ好きだよ。それなりのこともしているんだよ」
……できればそれは嬉しそうに言わないで欲しかった。
「じゃああいつもそうなんだろ。お前が好きそれでいいだろ」
「だと嬉しいんだけどね、本人が言うんだ、先輩の気持ちを知ってて弄んでいる可能性はなくはないって」
ぽたぽたとうつむいたその瞳から涙が数滴。いつもと違うその涙。
「もう僕にはそれがいつもの逆さ言葉だってわかるんだ。クルル君は僕に 優しい。時々。だからおかしいけどつながりがあるんだ」
二回目だが、それは知りたくなかった。
「わかってるのに悲しく
なるんだ。からかわれてたらって思うのが怖い。僕はね、本気なんだ」
かける言葉が見つからない。ドロロがこんなに真面目に恋慕の感情に振り回されるなど思ってもみなかった。
「それは俺なりの愛ってやつッスよ」
「貴様、だったらもっとわかりやすく言ってやれんのか」
「おっさんには関係ないだろ」
会話している相手に違和感を覚えた。
寒そうに火に当たっているのは件の人物。
「貴様、いつからそこにいた」
「関係ネェだろ、オッサン」
ある。多分ある。
「クルル君……」
「先輩、帰ろうぜ。聞いてやるから。ってまあ聞くだけですけどね」
腹の立つ口調で笑う。だがしかし、帰ろうぜ、と言ったその声だけ穏やかに思えた。それは一瞬の気のせいだろうか?
差し出された手をためらいなく取ったオレの幼なじみは瞬間俯いて、でも嬉しそうに微笑んだ。
ああなんだそういうことか、歩いてゆく後ろ姿を見送りながら、ただのろけられていたような、ただそのような何かに少し巻き込まれただけだと気づいた。
泣かなくても、また相談しにくるとしても、多分ドロロは愛されているのだろう。それがどのような形で表されているかはあまり考えたくはないが。
「弄んでいたら殺してやる」
それは許されない。軍の規律を外れるのをオレは由としない。だけど幼なじみとして、あの根は泣き虫のままのあいつの幸せを願う。

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