6.パンおじさん



ちょいとそこ行くおじさんよ
手に持ってるのはなんの袋だい?

「これか これは小麦粉の袋さ」

へー重そうだねぇ
ところで背中のズックにゃ何が入ってるの?

「これはバターの缶だよ」

肩から下げてるポシェットに入ってるのは?

「イーストだね」

ウェストポーチには何が入ってるのかな?

「砂糖に塩とモルトだよ」

そうかぁ それだけありゃぁ パンが作れるねぇ
これから焼くのかい?

「ああこれからだね」

ぼくらも食べたいもんだなぁ
できるのにどのくらいかかるかね?

「そうだな 5時間てとこだね」

そんなにかかるのかい?

「うちは発酵に時間をかけるからね」

かけすぎじゃないか? かけすぎだよ!

「そんなこといったって 仕方がないじゃないか
 かかるものは かかるんだもの」

そんなに待てないよ

「待てないといわれても こまったな」

待てないよ! 待てないよ!
ところでおじさん いいにおいがするね

「ああ パンのにおいかな」

へぇ 焼けたパンを持ってるのかい?

「いや パンを毎日焼いてるからね
 からだに においが染みてるのさ」

ああ いいにおいだなぁ
こんなに いいにおいがするのに
パンを持ってないだなんて おかしいよパク
においをかいだら
ますます おなかがすいて
がまんができないねパク

「ぎゃあ やめてくれ」

わ なんだおじさん
本当にパンの味がするよパクパク

「ああ ああ やめてくれ」

パンなんじゃないか?おまえパンだろう
パンのくせにまぎらわしい格好しやがって
えい食べてやる ぱくぱく
もっと食べてやれ もぐもぐ


おじさんはすっかり食べられてしまいました



next