狙われた新郎、淫虐のオフィス

(ごめんね
 心の中で己の新妻に詫びる。
 そう、八戒は最近、と結婚したばかりだった。彼は幸せいっぱいの新婚さんだったのである。
 八戒の勤めているのは、桃源郷商事という商社だ。何故かそこの穀物取引をする部署なんかに新婚早々配置換えをさせられてしまっていたのだった。
 慣れない仕事だった。覚えるべきことは山のようにあった。
 しかし、普通だと音を上げてしまうような専門用語の羅列にも八戒は良く耐えて毎日勉強していたのだった。
 今日も要領を得ない仕事で、やはり残業になった。手伝おうかと申し出てくれた同期の応援も断り、一人部署に残ったのだった。いつまでも甘えてはいられなかった。
「ええと。干害でアメリカ南部のトウモロコシ価格が急騰っと……」
 英文で入ってきたメールを八戒が必死で読んでいたときだった。
「これの英訳、至急頼む」
 どさっと机の上に、書類が積まれる音がした。もう、夜の九時を過ぎている。
 こんな時間に急ぎの仕事なんてついていないと依頼主を振り返ると、そこには金の髪をしたスーツ姿の男が立っていた。
「三蔵部長」
思わず、八戒は呟いた。そう、それは社内でも鬼畜でやり手だと評判の部長だった。
「フン。なんだ。俺の仕事はできねぇっていうのか」
 その整った容姿に似合わないべらんめぇな調子で部長は言った。八戒がサラリーマンらしく慌てる。
「ややややや。いやぁそんなことは! 」
「フン……そういや、てめぇは新婚だったな。ええ? 」
 心なしか、三蔵部長の目つきが剣呑な光を帯びたような気がした。
「本当は帰りたいんだろうが、ええ? 」
「い、いえそんな」
「正直に言ってみろ」
 八戒は、『今日の部長はやけに絡むなぁ』などと思いながら苦笑いをした。
「いや、帰りたくないっていったら嘘になりますけど」
「ケッ……カミさんの名前、なんていうんだ」
です」
 八戒は困ったように頭を掻いた。やけに自分との距離を詰めるようにして、部長が身体を押し付けてくるのにちょっと閉口した。
「そんなに早く帰って、そいつとヤリたいのか。ったくお盛んなこったな」
 部長の口元が淫猥に歪んだ。さすがにその言い様に、八戒が気色ばむ。
「部長! そんな言い方……」
 八戒が思わず席を立ち上がろうとしたときだった。
「部長ッ……! 」
 なんと。
 三蔵がきつく八戒を抱きしめてきた。
「やめ……やめて下さいッ部長ッ」
「……俺に断りもなく結婚なんざしやがって」
 責めるような語調だった。
 三蔵の熱い吐息が八戒の耳をくすぐる。思わず仰け反った。
「部長ッ……!」
 机の上の書類が崩れる。抱き寄せられてそのままくちづけられた。
「んッ……んんんッ」
 机に押し付けられる格好で、更に唇を貪られた。
「うぐ……」
 熱い三蔵の舌が遠慮容赦なく口腔内を這い回る。舌先で撫で愛すように舐め上げ蹂躙する。
「ふぅッ……」
 執拗に角度を変えて、舌を絡めあわされる。とろりとしたお互いの粘膜を触れ合わせ、蕩けるようなくちづけに酔い痴れた。
「はぁッ……」
 三蔵に解放される頃には、八戒の腰はがくがくと立っていられないほどになってしまっていた。
「……とやらと比べてどうだ」
 三蔵がにやりとその唇に人の悪い笑みを刷く。
「! 」 
 を引き合いに出されて八戒が目を剥いた。しかし、三蔵は嬲るような口調を止めなかった。
「もっと比べてみるか? 俺とそいつ……どっちがいいのか」
 三蔵は、そのまま八戒を机の上へと押し倒した。積み重なっている書類など、もう気にも留めない。
 前後左右の周囲の机へと、山のような書類は雪崩のように散っていった。
「やめて……下さい……どうして……あっ」
 八戒はネクタイを弛められ、ワイシャツを肌蹴させられていった。露わになってゆく肌に、三蔵が口づけを次々と落とす。
「部長ッ……! 」
「三蔵だ」
 情欲の滲んだ表情で、三蔵は自分のネクタイを片手で弛めた。
「俺とヤルときは……ふたりきりのときは三蔵と呼べ、いいな」
「や……部長」
 聞き分けのない部下の服を三蔵はほとんど脱がしてしまった。誰もいない職場の机の上で、いまや八戒は上司に犯されつつあった。
「あッ……ん」
 三蔵の舌はねっとりと八戒の首や胸を這い回る。しどけない八戒の白い肌に鬱血の跡が小さな薔薇の花びらのようについていった。
 ひきつれた腹の傷跡へ這わされた舌は、よどみなくもっと下へと這う。三蔵が性急な手で、八戒のベルトを解いた。そのままジッパーを無理やり下ろした。
「ひ……!」
 三蔵を押しのけようと、さんざんに躰をひねっていた八戒だったが、駄目だった。
 三蔵の恥知らずな舌先は、とうとう八戒のもっとも敏感な場所を舐め上げだした。
「ああっ……んッ……! 」
 ぴちゃぴちゃと、淫らな音が夜のオフィスに響く。三蔵は、まるでキャンディバーかなにかのように、八戒のソレを舐めまわした。
「ひ……ぃッ」 
 八戒が自分で自分の口を手で塞いだ。悲鳴を上げてしまいそうだった。
 低い、嗜虐性を帯びたくぐもった笑い声が、下肢を貪る男の口から漏れた。
「そうだ。あんまりデカイ声はださねぇ方がいいぞ。まだ他の部署に残ってるヤツらがいねぇとも限らねぇ」
 喋りながら、ちろちろと三蔵の舌先が八戒の屹立に伸ばされる。先端の割れ目を舌先で突くようにされて、思わず躰を震わせた。
「あうッ……」
 可憐な小さな口を開けている先端へ三蔵は舌先を押し込むようにした。鈴口に似たその裂け目からは透明な体液がとろとろと涎のように流れはじめた。
「フン。……ガマン汁が出てるじゃねぇか。そんなにいいのか」
「い……や……はぁッ」
「嘘つくんじゃねぇよ」
「ああッ」
 とうとう、三蔵の腕が八戒のスーツからズボンを剥ぎ取った。完全に露わになったしどけない下肢を眺めるとその口を歪めた。
「いい格好だ」
 そして、八戒を机の上へ腰掛けさせた。片足を自分の肩へと担ぎ上げる格好でその秘所を覗き込む。
「後ろも、ひくひくしてるじゃねぇか。おい、とかいうヤツとのときも後ろ使うのか?」
「何いって……何を」
 惑乱する感覚に必死で耐えながら八戒は振り絞るような声を上げた。
 三蔵の舌が後ろの粘膜を広げるようにして這ってきた。八戒が机の上で仰け反る。
「ああっ……! 」
 くちゅくちゅと恥知らずな音を立てて、三蔵の舌は挿し込まれるように入りこんできた。がくがくと八戒の腰が震える。初めての感覚だった。
 三蔵の舌が這うたびに、腰の奥が熱く疼いた。淫らな戦慄が躰の芯を走り抜けて、八戒は喘いだ。
「あうっ……ッ……あ……ん」
 三蔵は執拗にそこを舐めた。自分の唾液を塗りこめて、柔らかくするかのように襞を広げて舌を這わせ、蕩かした。
 やがて、
「……まぁ、いいだろう」
 呟くと、自分のベルトのバックルを外した。チャックの開く金属音を聞きながら、八戒は部長の意図に気がついて、その身を震わせた。
「ちょっと……ちょっと待って下さいッ待って! 」
 逃げようとしたが、無駄だった。押し当てられたのは、果たして熱い三蔵のオスの切っ先。
「ああっ……! いやぁっ……! 」
 覆い被さってくる三蔵の躰を押しのけようとして失敗する。
「ほら……な、ちゃんと入るだろ」
 熱い情欲の滲んだ部長の声が八戒の耳を刺した。
 ぎちぎちと、相当の質量のある肉棒を後ろに咥えさせられた。
「あっぅ! 」
 それを更に押し込めるようにされて八戒が仰け反った。
 スーツの上着は着たままだったが、シャツのボタンは全て外され、胸元も臍もちらちらと見え隠れしている淫らな姿だった。下肢は三蔵によって全て剥ぎ取られ、犯されている。
「狭めぇ……」
 三蔵がその口端に鬼畜な笑みを浮かべた。ゆっくりと八戒の躰を味わい眉根を寄せる。
「ひぃッ……!」
 腰をひくようにされて、八戒が仰け反った。肉筒をぞろりとした感覚が這い、それが腰の奥を疼かせた。
 三蔵の唾液と先走りで潤された粘膜が、三蔵を飲み込んだまま痙攣するかのようにひくついた。
「あうッ」
「いいか……いいんだな」
 三蔵がゆったりと抜き差しする。ぐぷぐぷと交接している箇所が恥知らずな音を立てた。
 八戒を事務机の上に押し倒し、三蔵は思いきり腰を使い出した。肉が肉を穿つ乾いた音と、粘膜と粘膜が接触する濡れた音が夜の誰もいないオフィスに響く。
「あっ……はぁ」
 八戒が思わずその瞳の端に涙を滲ませて、躰をよじったその時だった。
 電子音が耳障りな音を立てた。
「なんだ……? 」
 思わぬ邪魔に三蔵が舌打ちする。その電子音は八戒の背広、胸ポケットの辺りから聞こえてきた。
 三蔵が八戒の制止も聞かずに、ポケットをまさぐる。果たしてそれは携帯電話だった。
「フン……なるほどな。てめぇのカミさんからみてぇだぞ。八戒」
 三蔵が、携帯の画面表示を見ながら呟く。下肢は相変わらず八戒に突き入れたままだ。
「せっかくだ。愛妻に声でも聞かせてやれ。ホラ」
 三蔵は携帯のボタンを勝手に押した。
「もしもし? 」
 悪夢のようだった。携帯からの声が聞こえてくる。
「……! 」
 声にならない声で八戒は唸った。
「もしもし? もしもし? あれ? ……八戒?」
 繋がったのに、返事をしない相手を訝って、が声を張り上げているのが聞こえてくる。
 三蔵が携帯を取り上げたまま、にやりと笑った。八戒の手がぎりぎりで届かない位置へ携帯を放ると、そのまま八戒のことを激しく突き上げだした。
「ッ……! 」
 八戒が目を見開く。きつく穿たれて悲鳴を上げそうになった。三蔵が驚愕する八戒の耳へねっとりとした口調で囁いた。
「せっかくだ。愛する女房にてめぇの「夜のお仕事ぶり」でも実況中継してやれ……ホラ」
「あぐッ」
 腰を回すように抱かれて、八戒が仰け反って押し殺した悲鳴を上げた。
「やめ……やめて……ッ」
 携帯に手を伸ばそうとする。その手を三蔵に押さえつけられた。
「部長ッ……! 」
 転がった携帯は、まだの声を伝えていた。
「何? 何かあったの? 八戒ッ……八戒ッ! 」
 それは必死になって悲鳴まじりの声だった。
「てめぇの家からここまではどのくらいの時間だ? 」
  三蔵が冷然とした口調で八戒に問う。相変わらず尻を振って八戒を追いつめるようにして犯していた。
「う……? 」
 ひどい悪夢のような行為の連続に、意識に紗のかかりかけていた八戒は返事もできない。
「家、割と近いんなら、カミさんここまで心配して来るかもしれねぇな」
 何気なく三蔵は呟いた。
「驚くだろうな。結婚したばっかりのダンナがよりによって男の上司と」
「……………! 」
 怖ろしいことを言われて、蹂躙され続けていた八戒の意識が覚醒する。
「やめて下さいッ……にだけは……! 」
 八戒に縋り付かれて、三蔵の口端に嬲るような笑みが浮かんだ。
「は……知られたくねぇのか」
 ぐぷぐぷと三蔵を飲み込んだ後ろは派手な音をたてている。三蔵は浅く深く変則的な腰使いで八戒を惑乱させていた。
「なら……電話に出ろ。それで、この状態を説明して……なだめるんだな」
 三蔵は口元をつりあげたまま、愉しげに言うと八戒へ携帯電話を返した。
 いまだにの声が止まらないそれを乱暴に渡す。八戒は震える手でそれを受け取った。
「……もしもし、? 」
「八戒? 八戒?……どうしたの? 」
 しかし、八戒は返事ができなくなった。三蔵が八戒の脚を肩へ担ぎ、きつく奥を穿ち出したのだ。
「ぐッ……ん」
 思わず声を上げてしまいそうになって、八戒が携帯を手で覆った。うっかりすると甘い声が出てしまいそうだった。
 三蔵はそんな八戒を眺め降ろしながら、快楽の汗を浮かべて心地よさげに眉根を寄せた。きゅうきゅうと収縮する肉筒の感覚がたまらなく悦かった。
「八戒ッ……気分でも悪い? 八戒ッ」
 携帯からはひっきりなしにの声がする。声が漏れ聞こえてしまったのだろう。
「き、救急車でも呼ぼうか? 今、会社? 八戒ッ……八戒ってば」
 聞こえてくる内容に、思わず八戒は奥歯を喰い締めた。
 三蔵に蹂躙されている粘膜から凶暴な甘い疼きが這い上がって腰を焼く。熱い声で喘ぎ狂ってしまいそうになる。
 それでも、
 八戒は震える躰を叱責し、声を返そうとした。三蔵に蹂躙されたままで、なんとかに答えようとする。
「大丈夫。何ともないよ。救急車なんか……呼ばないで……ッ」
 話している途中で、三蔵がここぞとばかりに腰を強く突き上げた。奥の奥まで肉棒が届くその目眩のするような快美感に酔いしれそうになった。
 きゅうきゅうと肉筒が三蔵を揉みしだくようにして締まるのが自分でも分かった。携帯を握り締めた手に汗が浮いて、滑りそうになった。躰が熱かった。
「平気……だよ。もうすぐ……帰るから……」
 喋る舌が震えた。三蔵が穿ちながら、乳首を愛撫しだしたのだ。とろけるような愛撫で敏感なそこを舐め回されて、八戒は息を荒げそうになった。
「っあ……! 」
 もう駄目だと思ったときだった。
 三蔵が八戒の手から携帯電話を取り上げた。力の入らない八戒から薄型の携帯を奪い、その耳に当てる。
「もしもし、上司の玄奘ですが」
 淫猥な行為の最中だというのを微塵も感じさせない、冴えた低い声で携帯へ話しかける。
「猪くんが少し気分を悪くしましてね。ええ、ええ、いやたいしたことはないんですよ。少し休ませてから帰らせますので」
 いかにも紳士然とした口調で三蔵は言うと携帯を切った。
「……ったく」
 舌打ちすると、八戒を鋭いその紫暗の瞳で見つめ返した。
「芝居の下手なヤツだな」
 にやりと口元を歪める。
「安心しろ。カミさんは俺のいうことを素直に信じたぞ……素直すぎだな。ありゃ」
 くっくっくっと嗜虐的な笑いが三蔵の唇から漏れた。
「てめぇのダンナが、……男に犯されてるとも知らずにな」
「……ッ! 」
 嬲られながら、直線的に貫かれる。三蔵の動きが段々と早くなってゆく。終わりが近い。
「にしても、てめぇサービス精神が足りねぇんじゃねぇのか。喘ぎ声のひとつくらい、愛する女房に聞かせてやったらどうだ。ああ? 」
 嘲られながら、肉筒を激しく蹂躙される。叩き込むようにして穿たれた。
「……ま、一度イッとくか。他の部署のヤツが気づくとも限らねぇ」
「…………ッ」
 三蔵が動きを止めた。微妙にその腰が震える。
「ああ……ッ」
 男の淫らな体液が、八戒の奥へぶちまけられる。内部に広がる熱い飛沫の感覚に、八戒もつられるようにして、逐情した。
「あ……」
 意識が飛んでいた。
 目を開けると、オフィスの蛍光灯が目に痛い。事務机の上で上司に襲われ、逐情してしまったなんて、悪夢のようだった。
 呆然と意識を喪失していた八戒が、ようやく起きあがろうとしたそのとき。
「! 」
 フラッシュが焚かれた。
 八戒の携帯についているカメラだった。三蔵が、机に仰向けになったままの八戒の姿へ携帯のカメラレンズを向けていた。
「やめ……! 」
 悲痛な八戒の声を無視して、フラッシュが次々と焚かれる。
 八戒は、背広の前を開けられ、ズボンを剥ぎ取られて半裸という艶めかしい格好だった。男にいいように抱かれた後の乱れた姿だ。
 おまけにその前の屹立もむき出しで、腹には自分のものとも相手のものともしれない精液がべっとりとかかっている。
 当然、脚の付け根からは注ぎ込まれた三蔵の白濁がとろとろと滴り、太腿まで伝い流れていた。
 恥ずかしい姿だった。
 それを、三蔵は余すことなく画像に納めた。その口元には、鬼畜この上ない微笑みが浮かんでいる。
「すげぇ、いい記念写真が撮れたぞ。おい」
 愉快でたまらぬとでもいうように携帯の画像を眺めていた三蔵だったが、何を思ったのか携帯のSDカードを抜き取った。
「な……! 」
「コイツは俺が預かっておく」
 三蔵は、決定的な陵辱の記録を自分の背広の内ポケットへと入れた。衝撃のあまり、机の上で身じろぎもできずに硬直している八戒の耳元へと囁いた。
「誰にも知られたくなかったら……今度、またこうやって……俺と寝ろ」
 囁かれた言葉の内容に、八戒の目の前が真っ暗になる。
「あなたって人は……! 」
「今度はちゃんとホテルでゆっくり抱いてやる。……その時まで、コイツは預かっておく」
 三蔵は陵辱の姿を納めたSDカードの入っている内ポケットを背広の外側から手で叩いた。
「…………! 」
 夜のオフィスに、三蔵の鬼畜な笑い声が低くこだまする。
 いまや八戒は罠に嵌り、身動きもできず、絶体絶命であった。SDカードが抜き取られた携帯を三蔵の手から奪い返すだけで、やっとだった。
 もう、その後どこをどうやって家まで帰ったのかも覚えてはいないほどだった。
(返してもらわなくちゃ。あの写真を……部長から取り返さなければ)
 八戒の新婚生活は、鬼畜な部長の出現で、にわかに暗雲が立ち込めてきた。
 運命の歯車は……静かに狂いだしていた。

 了