メガラバ

とある日の午後。
 慶雲院の三蔵の執務室に、青い顔をして八戒が飛び込んできた。
「三蔵ッ! 」
「なんだってんだ、騒々しい」
 面倒そうに三蔵は答えた。机に座ってマルボロを燻らせている。目の前にはうずたかく書類が積まれていた。八戒の方に振り向きもしない。
「今、クソ忙しいんだ。話なら後だ」
 忌々しげに忙しなくタバコを吸いながら、書類の山と格闘している。そんな三蔵の顎を強引に八戒が捉えた。
「!」

 三蔵の目が驚きに見開かれる。

 それもその筈だった。

 八戒の柔らかい唇が、有無をいわさず重ねられてきたのだ。
「ふ……」
 紫暗の瞳が細められる。八戒は積極的だった。三蔵は手元のタバコを黙って灰皿の上へと置いた。
 角度を変えてお互いの口腔を貪り合う。舌と舌を絡めあわせ、吸いあった。マルボロの残り香さえ、媚薬の代わりだとでもいうように、八戒の唇は深く重ねられた。
「んっ……」
 腰の崩れるような甘美なくちづけに、酔い痴れる。深く粘膜を犯しあって、やっと離れた頃には、すっかり三蔵の躰の奥には火種が点されていた。離れてゆく甘い唇を見つめながら、三蔵が呟いた。
「何、煽ってやがる。珍しいな」
「ぼ、僕こんなつもりじゃ」
「てめぇが誘ったんだろ……なんだ、そんなにヤリたいのか」
「ち、違……」
「ん? 」
 三蔵はようやく八戒の異変に気がついた。
「お前、耳……」
「そ、そうなんです。カフス、いっこだけ無くしちゃって」
 そうなのだ。
 八戒の耳の三つ嵌まっているカフスは二つだけになってしまっていた。
「どこに……無くしたか分からないんです……困っちゃって」
 八戒の声が段々小さくなる。
「あれは特注なんだがな」
 三蔵は片眉をつりあげてみせた。面倒ごとがまたひとつ増えたといわんばかりに空を睨む。
「しょうがねぇヤツだ。また注文するしかねぇな。で……」
 金の髪の鬼畜坊主は口元を歪めると、ねっとりとした声で囁いた。
「……本当に、お前の用事はそれだけか」
 八戒は喉を鳴らした。びくんと躰が震える。気がつけば、三蔵の腕の中へと既にその躰は絡めとられていた。
「あ……」
 耳元に甘美な毒のような声が注がれたと同時に、八戒の背筋を電撃のような快楽が走り抜ける。それは甘く腰奥を焼いて躰の芯でくすぶった。
「く……ふ……ん」
 思わず、腰を揺らしてしまう。三蔵の囁き声ひとつでも今の八戒にとっては強烈な快感だった。
「ったく……」
 最高僧が思ったとおりだとばかり、愉しげに喉で笑った。
「やりたくてしょうがねぇのか。カフスが取れて……発情期か? 」
 くっくっくっと三蔵の声が執務室に響く。
「返事はどうした。え? 」
 紫暗の瞳が嗜虐的な光を帯びる。剣呑な紫水晶のようだ。狩りに長けた俊敏な獣を彷彿とさせる仕草で八戒の瞳を覗き込んだ。
 紫の目と、深い緑色の目が正面からぶつかった。
「言わねぇとやらねぇぞ」
 八戒は、その深い紫色の瞳に映りこんだ自分の像を見つめながら唾を飲み込んだ。言うしかなかった。
「……ええ、欲しいです。貴方が」
 それを聞いて、三蔵は人の悪い笑みを浮かべた。そのサディスティックな笑いは嫌な予感を抱かせるに十分だった。
 しかし、せっぱ詰まっていた八戒には他に選ぶ方法などなかった。







「あ……だからって……! こんな……」
「なんだ、机の上はいやか」
「あ、当たり前……あっ」
 性急な三蔵の手によって、八戒は執務室の机の上に仰向けに押し倒されていた。
 三蔵が執務をする部屋は、さすがに最高僧が使う部屋だけあって調度も立派だ。いや、立派というと語弊があるかもしれない。簡素な中にも品位のある趣味のいい部屋だった。
 華美ではないが、質のよい道具が揃えられていた。来客を簡単にもてなす事ができるソファ、小机、壁の一面を占める資料の入った書棚。床には幾何学模様の緋色の絨毯が敷かれている。
 とりわけ存在感があるのは、なんといっても、いつも三蔵が書類の山と格闘している事務机だ。それは大きなものだった。質のよい杉材を使って設えられたその上に、今八戒は蝶々の標本のように押さえつけられている。
 脚を左右に開かせられようとしていて、今にも――――標本でいうなら――――注射針を打たれる寸前といったところだった。
「あぅ……ッ」
 脚の間で育ってしまった屹立を三蔵が握り込む。やわやわとした愛撫を施されて、八戒が仰け反った。
 机の上を占めていた書類たちは、邪魔だとばかりに大半が床の上へと投げ捨てられていた。灰皿も邪魔だとばかりにどけられている。
 わずかに残った書類に、八戒の艶のある黒髪がばさばさと音を立てて散った。
 八戒は下肢だけ脱がされた恥ずかしい格好だった。全裸にするよりもその様子は艶めかしくさえあった。上に着たシャツは全てボタンを引きちぎるようにして外され、申し訳程度に引っ掛けているといった具合だった。
「脚を閉じるんじゃねぇ、見えねぇだろうが」
 とんでもないことを鬼畜最高僧は昂然と言ってのけた。八戒は羞恥で頭が煮えてしまいそうだった。まだ、日はかなり高かった。
 陽光差し込む部屋の机の上なんかでよりにもよって事に及ばれようとしている。シャツの合間からちらりと覗く腹部の傷跡すら扇情的だ。
「さんぞ――――」
 切ない声を八戒は上げた。
 しかし、強く抵抗しきれない。なんといっても躰の芯が甘く三蔵を求めて狂いそうだったのだ。八戒は発情しきっていた。
 本当は、暗がりの寝台で密かに抱いて欲しかった。三蔵の私室で、思う存分やさしく抱いてもらいたかった。とろとろに蕩けて乱れて欲しがってしまっている自分を覆い隠す、優しい夜の暗闇がひたすら恋しかった。
 自分の秘所を覗き込む三蔵の視線を感じて、八戒は深く後悔していた。こんなことなら、夜にでも忍んでくれば良かったと思った。カフスを無くしたのは昨日の夜からだった。
 しかし、夜三蔵に会いに行くというのも、もう目的が「それ」だけだと思われそうで気がひけ、我慢してしまったのだ。
 そう、そんな余計な気をまわしたのが、そもそも間違いのもとだったのだ。嗜虐性のある鬼畜坊主が、こんな愉しい機会を逃す筈はなかった。八戒は飛んで火に入る夏の虫も同然だった。
 心は恥ずかしいと思っているのに、鬼畜坊主の言葉どおり、躰だけは狂おしいくらい三蔵を求めて蜜をたらしていた。
 もう、どうしようもないほどだった。淫らな躰と肉欲にひきずりまわされる。
 三蔵は口元をつりあげるようにして声を出さずに笑った。こんな、滅多にない機会を逃すつもりは確かに三蔵にはなかった。








 ひくり、ひくりと、
 蠢く妖しいその襞を指で広げ、粘膜をさらけださせる。三蔵はその淫らな孔に誘われるようにして顔を近づけた。ピンク色の粘膜へと、三蔵が息を吹きかけた。
「あっ……ああっ」
 日頃は執務に使う厳粛な机の上で、艶めかしい生贄のようにその身を捧げさせられている。
 八戒は身をくねらせた。後ろの孔へ三蔵が熱い息を吹きかけただけで、ぞくぞくするような快美感が背を這い上がってくる。快楽を逃そうとして、荒い息を吐きつづけている様子は妖艶だった。
「まだ、何にもしてねぇぞ」
 鬼畜最高僧の愉しげな声が響く。
「ひくひくして……なんだ。すげぇいやらしいな。お前のココは」
 三蔵はそういうと、指先で窪みを突いた。八戒の躰が若魚のように跳ねる。
「やッ……!」
 電撃でも走るかのような感覚だった。三蔵は人の悪い笑みで、その唇をつりあげ、くっくっとくぐもった笑い声を立てた。
「ピンク色してやがる……誘ってるみたいだな、そんなに男を咥えこみたいのか淫乱が」
 三蔵はそう言うと、舌先をそっとその襞に走らせた。目の前で火花が散るような衝撃的な快楽に八戒が背を海老反らせた。耐え切れなかった。後ろから三蔵が舐める淫音がぴちゃぴちゃと立つ。
「狂っちゃう……や……です」
 すっかり勃ちあがった、八戒の前がふるふると震えて揺れた。
 とろとろと、
 八戒の精路から、粘性のゆるい透明な先走りの体液が溢れてくる。
 最高僧の手が無造作にそれに伸ばされ、節立った指がそれを握り込み、溢れる体液をその先端へと塗りこめるような動きをした。甘い嬌声が八戒の唇から漏れる。
「すげぇ出てくるな。そんなに気持ちいいのか。恥知らずが」
 三蔵の愉しげな声が再び響いた。
「手がべたべたに汚れるじゃねぇか。いやらしい汁だしやがって」
「やぁ……ッ」
 八戒はいやいやをするように首を左右に振った。言葉で嬲られ苛められていた。
 つっと三蔵が、八戒の屹立に指を走らせた。神経が集まって敏感にできている括れをなぞりあげ、その肉冠を戯れのように口で一瞬咥えた。
「あ……! ああっ……! んんッ……!」
 八戒の躰が跳ねる。惑乱する感覚に尻を振って悦がってしまう。
「このドスケベが。ひとりで勝手に、こんなに熟れてとろとろになりやがって」
「そんな……そんな」
 八戒が抗議する。こんな執務室の机の上なんかで半裸に剥かれ、脚を広げられて嬲りものにされていた。
 ただでさえ、発情してしまっている躰に加えられる愛撫は嗜虐的な上に淫靡で、八戒の限界を超えていた。
 三蔵の紫暗の瞳が、いやらしく粘膜の奥へと注がれているのを感じる。視姦されるようなその行為に、八戒の躰の熱はいやがおうにも熱く、熱くなった。
 腰を振って三蔵を無意識に誘ってしまう。その天然の媚態に、三蔵は冷たい一瞥をくれた。
「いい眺めだな」
 双球と後孔の狭間に舌を走らせた。舌先でとろとろと溶かすように舐る。
「いや……です! も……!」
 焦らされ続けて、八戒の躰が限界をむかえた。三蔵の目がすっと冷酷に細められる。
「欲しいのか」
「欲しいです……! お願いさんぞ……! お願いさんぞ! 僕を……」
 通常なら言わないだろう恥ずかしいセリフを八戒は立て続けにいった。
「僕を……めちゃくちゃに……して……早くぅ……ッ」
 しかし、三蔵はまだまだ八戒を嬲るつもりらしかった。
「何でどうやってめちゃくちゃにして欲しい。ん? さっぱり分からねぇ」
 冷たいその声に、八戒は熱く喘いだ。もう既に焦らされすぎて、理性は消し飛んでいた。躰が変になりそうだった。
「あなたの……あなたの……で……突いて……突いてめちゃくちゃに……突いてぇッ」
 絞り出すような声で八戒は縋った。
 身も世もない淫らな懇願に、鬼畜坊主の頬に人の悪い笑みが浮かんで消えない。
「俺の……ってのはコレか?」
「あうッ! 」
 八戒はびくんと躰を仰け反らせた。三蔵が服の前を割り広げ、自分の肉塊を取り出した。それを八戒の震える屹立の先端に宛がったのだ。
 戯れに嬲るような行為だった。鈴口の先端と先端。快楽の液でしとどに濡れる粘膜同士を擦り合わされた。八戒の中で何かが完全に焼ききれた。
「あ……、ああっ……! 」
 机の上に横たえられていた上体をやや起こすようにして、八戒は躰を震わせた。
 内股が震え、四肢が突っ張る。電撃のような快楽が全身を貫いた。
「こんな……!」
 がくがくと腰を揺らして、八戒は達した。
 白く熱い体液が、その屹立の先端から溢れ、幹を濡らしてゆく。
「ありえねぇな。もうイッちまったのか」
 侮蔑したような三蔵の声が被さる。八戒は三蔵の肉塊の先端を宛がわれただけで逐情してしまったのだ。
「敏感すぎるのにも、程があるんじゃねぇのか。淫乱野郎」
 喉を反らせて、机の上で八戒は涙を流して喘いだ。目の前は白く、天井も霞んで見えない。三蔵の声が刺さるように耳に入り、恥ずかしかった。
 腰がいまだにがくがくと揺れる。強烈な快感だった。熱く息を吐きながら、八戒は胸を上下させていた。腰がびりびりと電撃にでもあったかのように熱い。
 白濁した熱い快楽の徴は、八戒の腹部の傷にかかり、そのまま下へと流れ落ちた。
 三蔵が、その体液を指ですくうと、後ろへと塗り込めはじめた。ひくり、と後孔がもの欲しげにふるえてしまう。
「あぅ……!」
 達したばかりの躰には酷な愛撫にのたうちまわる。
「さんぞ……さんぞ」
 ひたすらに艶めかしい声で、八戒は三蔵を呼んだ。
「なんだ」
 三蔵は冷たい視線を八戒に向けた。酷薄にさえ感じられるその整った輪郭が、いっそ恨めしいほどだ。
「挿れて……挿れてぇ……! 」
 八戒は目元を染めて、涙を浮かべ腰を左右にくねらす。凄艶で目に毒な姿だった。
「だったら、もっとちゃんとおねだりしてみろ。できるだろうが」
 いまや、肉欲の奴隷となった艶めかしくも淫らな八戒に止めを刺そうと、その耳に口を寄せる。耳元に嵌まっているカフスは確かにふたつしかなかった。
 八戒は発情しきっていた。
「あ……」
 自分を嬲る、その低音の声にすら感じて八戒は腰を無意識に揺らした。とうとう観念したように目をぎゅっと瞑る。
 のろのろとした動作で机の上で身を起こした。肌蹴たシャツが快楽の汗で張り付いて艶めかしい。朱鷺色の乳首が見え隠れして男を誘っているようだ。
 熱い吐息をつきながら八戒はそろり、とその脚を大きく左右に開いた。その動きで、わずかばかり載っていた書類が今度こそ全部床へと落ちた。白く舞い絨毯を覆ってゆく。
「下さい三蔵……」
 腕を自分の下肢へと伸ばして、手をその脚の付け根へと這わせた。狭間で熱く息づく恥知らずな孔をその指で広げてさらけだす。
 赤く熟れきった粘膜が空気に触れてわなないて震えた。
「僕の……この、淫らな……孔に」
 三蔵はそこを覗き込んだ。顔がつきそうな至近距離だ。
 厳粛なる僧院の机の上で。大また開きして高僧を誘う美しい黒髪の青年と、その狭間を覗き込む金髪の鬼畜坊主。執務室の情景は、もう日常とは異なる淫らな空間へと様変わりしてしまっていた。
「尻の孔に何が欲しいって? もっと蠢かしてみろ。もっと上手に俺を誘え」
 三蔵の平手がその腿に飛んだ。
「あ……ッ」
 しかし、そんな叱責にも感じるのか、八戒が目元を染めて、びくんと躰を震わせる。
「こう……ですか? 」
 ひく、ひくと。
 尻の肉に力を入れ、躰の芯の媚肉を駆使して八戒が孔を窄めたり、開いたりしだした。
 上の口も下の口も三蔵の雄が欲しいとぱくぱくと喘いで震えさせてみせる。
「あ……」
 三蔵はその淫らな八戒の姿に対する褒美のようにくちづけた。軽く合わされて離れようとする三蔵の頭を八戒はたまらずかき抱いた。
 逃さぬとばかり、その痩躯を擦り付けるようにして縋った。かき抱き自然に自分の唇のところにきた、鬼畜坊主の耳元に甘く囁く。
「下さい……あなたの――――」
 後半の言葉はとても普段いうことなど叶わぬような卑猥で下品な言葉だった。下卑た性器の俗称までその舌へ上らせて、八戒は露骨に三蔵をねだった。
 焦らされすぎて艶めかしい熱い汗が浮いている。翡翠色の瞳は情欲で潤みきっていた。
「堪え性のない淫乱が。褒美だ」
 滅多に聞けぬ、卑猥なおねだりを黒髪の美人から聞けて、上機嫌で三蔵は言った。
 淫らな八戒の姿に煽られるようにして、すでに硬く張り詰めて血管を浮かせている肉塊を宛がう。そのまま、躰を進めた。
「あ―――! 」
 八戒は突き入れられると同時に躰を震わせた。がくがくと躰が揺れる。
「早えぇ……」
 突き入れたまま、鬼畜坊主はくっくっと笑った。三蔵が笑う度に腹筋が動いて突きまわされる角度が変わり、八戒がびくびくと反応する。
 三蔵が笑うのも無理はなかった。
 八戒は、突き入れられると同時に前を再び弾けさせていた。脈を打つ三蔵のを感じただけで達してしまったのだ。白濁した体液をしとどに放ってしまっていた。傷跡のある自らの腹部と、三蔵の躰にそれはかかった。
「もうイッちまったのか。……そんなに喰いたかったのかコレが」
 三蔵は達した八戒にかまわず奥を突き上げた。
「あうッ!」
 発情しきっている上に、達したばかりで過敏になってる躰をいいように穿たれて八戒が悦がった。快楽に眉を寄せて、三蔵の肉塊を味わっている。
「あッ……あっ……欲しくて……ヘンになりそう……でした……」
 甘い吐息まじりの声が三蔵の耳朶を心地よく打つ。
「あなたの……硬くて……太いの……が」
 欲情して興奮しきっていることを隠しもせずに八戒は喘ぐと、自分からも腰をくねらせて三蔵の動きと合わせる。
 その端正な顔に浮かぶ悦楽の表情は淫らに蕩けきっていた。捏ね回すような動きで八戒を穿ちながら、三蔵は囁いた。
「俺のはどんな……感じだ。言ってみろ」
 とろとろに蕩けて四肢を震わせている八戒にはもう、理性など欠片も残っていない。快楽でわななく紅潮した唇が卑猥な言葉を紡いだ。
「熱くて……僕のナカをいっぱいに……広げて……ずっぽり埋まって……硬くて……ぞくぞくする……イイ……もう…イイ……気持ちイイッ……!」
 自分から腰を振って快楽を追おうとしている。眩暈のするような淫乱さだった。弾力があるのに硬い三蔵のものがよくてよくてしょうがなかった。
 三蔵が変則的に腰を揺らして穿つ度に、八戒の唇から狂ったような嬌声が上がる。甘く熱い喘ぎが部屋に満ち、ふたりの交合は激しく淫猥の度をひたすら増していった。
 三蔵が、腰をゆるゆると引いて、次の瞬間激しく打ち込む動作を繰り返したときに八戒が呻いた。
「あう! 」
 その尻が三蔵を咥えたままくねる。もう、全身が何をされても感じてしまう恍惚の夢幻境へと近づいていた。
「奥が……奥が……ああっ」
 蕩けきった表情で訴える甘い悲鳴に三蔵が反応した。
「なんだ。奥がいいのか、じゃあもっとくれてやるぞ」
 情欲に囚われた獣の表情で最高僧はいうと、八戒の躰を抱きかかえた。そのまま、傍に引き寄せておいた背後の椅子へと腰掛ける。
「――――ッ!!」
 繋がったまま、三蔵に跨った形で座らせられる。深く深く自重で奥まで繋がるような体位に八戒が背骨を反らせてわなないた。
 びりびりともの凄い快美感が電撃のように腰から躰の芯を焼き、脳を真っ白に染め上げる。座位になった瞬間、前立腺をエラの張った部分で激しく擦り上げられて耐え切れなかった。
 びゅくびゅくと、
 何度目になるかも分からない白濁を吐き出しながら八戒は三蔵へ抱きついた。達する瞬間、肉筒を蠕動させて、激しく三蔵の肉塊を締め上げてしまう。
「いやぁ……ッ」
 淫らな行為の連続で、紅潮した白い肌が小刻みに震える。椅子に腰掛けた三蔵の上で、八戒は跳ね踊りそうになる躰を震わせて、そのしなやかで長い手足を三蔵に絡めてしがみついた。感じ過ぎて足の爪の先まで震えている。
 くっくっと愉しげな鬼畜坊主の笑い声が低く漏れた。しどけない八戒の躰を喰うようにして犯しながら、無上の快楽を味わっていた。
 八戒が、達すれば達するほど、後ろの締まりはきつくなり、複雑に蠢いた。きついのに柔らかいという相反する媚肉に締め上げられて、三蔵は心地よさげに眉根を寄せた。八戒の躰は蜜のように甘かった。麻薬のように蟲惑的だった。
「八戒……」
 嬲るような言葉で責めるのを三蔵が止めて、ようやく甘い口調で囁いたときだった。

 執務室の扉が、外側から激しく叩かれた。

「さんぞー! 三蔵!」
 悟空の声だった。
「いるんだろー! 三蔵」
 能天気な小猿の声が、扉を越えて執務室に響く。非常にまずい事態だった。
「う……! 」
 もう、理性にとうに霞みがかかっている八戒だったが、何かよくないことが起ころうとしていることは分かったらしい。きゅうと後ろの孔を引き絞って慄き、三蔵にしがみついた。
「さ、……ぞ、ドアの鍵……は」
 恐る恐る尋ねる。
「知らねぇ。開けて入ってきたのはお前だろ。お前がかけてなけりゃ、鍵なんざかかっちゃいねぇ」
「!」
 とんでもない状況だった。
「なー! 三蔵ッ。悟浄が来てるんだよ! なんか八戒探してんだって! 」
 事態は悪くなる一方だった。
「よお。最高僧サマ。八戒そこにいる? 」
 紅い髪の男の声までもが聞こえてきた。廊下に立って、ふたりで三蔵の執務室の前で叫んでいる。
「……どうする」
 少し、面白そうな顔で三蔵は八戒に言った。
「見せてやるか、こんな状態だけどな」
「!」
 八戒の面が蒼白になる。三蔵を咥え込んだ肉筒が恐慌したようにきゅうきゅうと締まった。三蔵と繋がっているところを、悟空と悟浄に見られてしまう。そんな悪夢のようなことはごめんだった。
 悟空にしても悟浄にしてもショックだろう。真ッ昼間から、執務室の机の前で、お互いを獣のように貪りあって繋がり続けている三蔵と八戒なんて。
 床には本来執るべきだった書類が落ちて散らばり、傍らには三蔵の手で剥ぎ取られた八戒の服が生々しく落ちている。
 背徳的な獣の表情で三蔵を咥えこみ悦楽に狂っている八戒は、もう二度と悟空にとって「優しい年上のほのぼのお兄さん」なんてものには到底見てもらえないだろう。養い親の恥ずべき愛人か、性交奴隷だと思われたってしょうがないような、いまの八戒の立場だった。
「お願い……です! お願い……それだけは……」
 八戒がしがみついて囁き声で懇願する。それに呼応するかのように三蔵が悟空へ返事をした。
「八戒なんか来てねぇぞ」
 低いが読経で鍛えた、よくとおる声だった。
 八戒が驚いたことには、三蔵は捏ねるようにして再び肉筒を穿ちだした。
 止めて欲しいと必死で八戒が上目遣いで訴えるが、三蔵は冷淡にもそれを無視した。ぐちぐちゅと卑猥な音が立つ。熱く喘ぎそうになって八戒は仰け反った。
「えー? ほんとにぃ? ……入っていい? 」
 扉の向こうから聞こえてくる悟空の言葉に八戒が驚愕に目を見開く。思わず腰を引こうとした。
 しかし、そんな八戒を許さぬとばかりに、三蔵が両腕で浮いた八戒の尻を引き戻して穿った。腰を使ってまわすようにして内部を深く抉りまわす。
 とたんに甘美なおののきが、肉筒を走りぬけて腰奥を焼き、八戒は思わず甘い悲鳴を上げそうになって奥歯を噛み締めた。
 こんなところでそんな声を上げたら終わりだ。
「ダメだ」
 三蔵は冷静な口調で言った。喋りながらも、下肢は八戒の放った精液でべとべとに濡らしたまま、そのしどけない肉体を好き放題に穿って甘い声を上げさせている。
 それなのに、そんなことなど微塵も感じさせない硬質な声音で三蔵は扉のむこうにいるサルと河童へ告げた。
「今、仕事中だ。入ってくんじゃねぇ。クソ忙しいんだ。入ってきやがったら殺す」
 その間も三蔵は腰の動きを止めない。八戒は気が狂いそうになっていた。快楽で解けていた唇を噛み締め続けるのには限界があった。行き場を失った快感が内攻して身のうちで燻る。我慢できなかった。
(さんぞ……さんぞ許して……僕、……声……でちゃ………んッ)
 痙攣しながら、狭間で三蔵をきゅうきゅうと締め付けながら八戒は悦がった。
 やがて、扉の向こうでため息が吐かれる気配があり、ふたり分の足音が遠ざかっていった。
「……フン。ったく邪魔しやがって」
 三蔵が舌打ちして、扉を眺める。ようやく悟空と悟浄を追い払うことに成功したようだった。
 最高僧は安堵すると、再び八戒の躰を味わおうとその躰を抱きなおした。すっかり力の抜けたようなその上体を支え、顔を上げさせる。
「大丈夫か。もう行ったぞ。……! 」
 三蔵は絶句した。
 上げさせた八戒の顔はこれ以上ないほど、だらしなく蕩けて乱れていた。
 おまけに、また知らないうちに放ってしまっていたらしい。もはや何度目になるかも分からぬ精液を吐き出して、八戒の性器はふるふると震えていた。
「……てめぇ」
 三蔵はその頬に鬼畜な笑みを濃く刻んだ。
「……あのふたりに見られるかも知れねぇと思って……感じてたのか。なんてスケベなヤツだ……」
 仕置きだとでもいうように、三蔵がきつく八戒の躰を肉棒で突いた。
「あうッ!」
「見られるかもしれないと思うと感じるんだな。見られた方がイイのか。淫乱が」
 腰を浮かして逃げようと躰を捩る八戒を追うようにして、三蔵は八戒と繋がったまま床へと倒れた。緋色の幾何学模様の絨毯に、八戒の白い肌はことのほかよく映えた。倒れた勢いで三蔵は八戒を思い切り穿った。
「――――ッ!」
 もの凄い強さで、三蔵の肉棒を叩き込まれるような行為に八戒が目を剥いた。快感が強すぎて気を失いかける。
「まだだ。まだ」
 三蔵は八戒の脚を肩へと担ぎ上げた。正面からお互いを抱き合う。机の陰、床の上なんかで再び背徳的な行為に溺れた。獣のようだ。部屋の中は再びふたり分の熱い吐息で満ちてゆく。
「見られると思うと興奮するのか……いやらしい……またすげぇ勃ってるぞ」
「ちが……」
「何が違う。そうだろうが。サルや河童に見られると思って興奮したんだろうが。恥知らずめ」
 三蔵には思い当たる節があった。悟空や悟浄の声がする度に、八戒の締め付けはきつくなっていたのだ。仲間に性交を見られてしまうと思って密かに興奮していたのだろう。この緑の瞳の男は極めて淫らで被虐的な快楽を全身で貪っていたのだ。
 発情した八戒はどこまでも淫らだった。普段からは想像もつかない八戒の淫靡な裏の姿だった。
「そんなに見られるのが好きか。今度、誰かの前でたっぷり抱いてやろうか」
 最高僧が口を歪める。
 三蔵の躰の下で、脚を抱えられるようにして躰を折り、奥の奥まで貪られながら、八戒はいった。
「やめて……そんな……僕が……イイのは……さんぞに……見られるのが……」
 甘い、甘い蕩けるような吐息塗れの声で囁く。鬼畜坊主に視姦するようにして犯されるのが、一番感じると八戒は言っているのだ。
 甘い告白だった。瞬間、理性を飛ばしてとろとろに潤んだ八戒の翡翠の瞳と目が合って、三蔵が一瞬言葉に詰まった。魔性じみた色香が八戒から匂いたって最高僧をも絡めとっていくようだった。
「煽りやがって……覚悟しろよ」
 感じすぎてがくがくと震えるその脚を抱え、腰を打ち込むようにして穿った。その淫らすぎる躰に垂直に快楽を叩き込む。
「……ブチまけてやる。望み通り犯してやる……たっぷり……味わえよ」
 三蔵が最奥を穿つと同時に一瞬強張ったようにして動きを止めた。
「く……!」
「あ……」
 腰が生理的に震えて八戒の中へと白い体液を注ぎ込む。脈拍と同じリズムで吐き出されるそれを余さず八戒は受け入れた。
 躰を強張らせて、内部を潤してゆく淫らな液体を飲み込み、腰をびくびくと震わせる。三蔵の精液の拡がる感覚にすら感じて我慢できないのだろう。仰け反って八戒も達してしまった。
 緋色の絨毯が八戒と三蔵の体液で汚れてゆく。
 はぁはぁと荒い息を吐きながら、三蔵と八戒は絨毯の上に転がり続けていた。
「ったく。いつにも増して、感じやすいんじゃねぇのか。カフスがないとそんななのか」
 やがて、三蔵が言った。一瞬、マルボロを探す動作をしたが、灰皿ごと机の向こうへと退けたことを思い出したらしい。諦めたように乱れた服の裾を整えている。
「……そ、ですね。……カフス……一個だけなんですけど……ないと……歯止めがきかないみたい……です」
 もう、感じすぎて一指も動けない風情で八戒が答える。下肢には何も身に付けていない。上に羽織ったシャツも三蔵によってほとんど脱がされ艶めかしすぎる姿だった。
 ひくり、ひくりと肌を震わせ、いまだに三蔵が注ぎ込んだ熱を味わうようにして余韻に浸っている。
「……ったく」
 照れ隠しなのか、舌打ちする三蔵の傍へと八戒は這い寄った。
「こんな僕は……」
 三蔵の耳元へとその甘い唇を寄せた。
「お気に召しませんでしたか? 」
 聞くものを悩殺するような声音で八戒は囁いた。部屋の空気すら濃厚な情欲の粒子で埋め尽くすような鮮やかな色気だった。
 聞かされる男はたまらない。果たして、三蔵がそのしなやかな腕を捕らえた。
「しょうのねぇ野郎だ」
 再び躰の下へと敷き込む。
「三蔵……」
「もういい。お前、カフスが新しくできるまで、ずっとここにいろ。毎日、俺が可愛がってやる」
「三蔵、仕事……仕事は……」
「知らねぇ」
 書類が散らばった慶雲院の執務室に、また熱い吐息が満ちていった。まだまだふたりの交合は終わりそうになかった。
 濃厚に、そして濃密に夜は更けてゆく。







 余談
 
 悟空「ねぇねぇ、悟浄。八戒になんの用だったの? 」
 悟浄「アイツ昨日からカフスなくしたって慌ててたんだけど……俺、家のテーブルの下に落ちてるの、さっき見つけてさ。教えてやろうと思ったのよ。でも、どこ行ったんだアイツ。ぜってー三蔵んとこだと思ったんだけどなぁ」