マヨネーズプレイ

「した……じゃないですか。昨日もおとといも、その前も」
 八戒の言葉の語尾がかすれる。困っているくせに、その言葉の響きはどこかが甘い。強引に白い僧衣を着た腕の中へと抱き寄せられた。
「あ……っ」
 嗅ぎ慣れたタバコの味がかすかにするくちづけ。触れ合った唇が甘い毒で痺れたように麻痺してしまう。お互いの吐息と唾液に濡れ、もっと奥へ、快楽を探しあてようと舌と舌を絡めあう。
「なんだ、もう飽きたのか」
 キスをするのが当たり前になったのはいつからだろう。そして、その先の行為も……。
「く……」
 八戒は思わず首を横に振った。飽きてなぞいない。むしろ、加速してゆくこの淫らな関係に心も身体もついていけないだけだ。
 しかし、この傍若無人な最高僧様にそんな微妙な八戒の気持ちをわかれといっても無理だろう。
「飽きて……な……か……っ」
 ベッドの上に向き合って座る三蔵の背へ、八戒は両腕を回した。
「ふっ……」
 舌を絡め取られてきつく吸い上げられる。舌の付け根が痺れたように麻痺して、快美感が蕩けるように湧いてくる。キスしながら、三蔵の両手は八戒の頬から首筋へと落ち、パジャマの下から直接、八戒の綺麗な背中をなぞった。ひとつひとつ、背骨を数えるように、撫で愛される。
「ん……」
 そのうち、八戒の身体を覆っている布がひとつ、ベッドから落ちた。
「んんっ」
 饒舌な手が八戒の前まで這ってきた。撫でられ、触れるか触れないかの優しさで、胸の尖りを悪戯される。
「ああっ」
 甘美な電流に似た快美感が背筋の神経を走り抜け、腰奥を疼かせる。思わず、八戒は喘いだ。生理的な涙で潤む瞳、三蔵の紫暗の視線とぶつかった。その美麗な瞳が、情欲で翳り、どこか狂おしい衝動をたたえられている。
 もう視線で見られることにさえ、感じてしまいそうで、八戒は無理やり目を逸らした。
「そんなに飽きたのなら……分かった」
 三蔵が取り出したものを見て、八戒が顔をしかめた。
「な、なんですかそれ? い、いつの間にこんな」
 いやだとばかりに身体をひねるが、許してもらえない。
「たまには趣向を変えてやる」
「いやです! 」
 最後まで、言葉は紡げなかった。その小さなソフトチューブに入った調味用のソースを最高僧は八戒の白い胸元へ塗った。
「ここから、てめぇを食ってやる」
 ぽと、と赤く上気して色づいているその乳首がクリーム色のソースで塗れる。
「や……」
 ぺろ、と三蔵の舌が這った。途端に熱く痺れたような感覚が走り抜ける。背を抜け、下肢にまで伝わる甘い甘い電流のような。
「あうッあっあっ」
 切羽詰った声があがる。三蔵に吸われる度に、八戒はひくりひくりと震えてしまう。乳首はすっかりぷっくりと膨れて立ってしまっている。それを三蔵が舌先ではじいた。
「ああっ」
 あまりにも執拗ないたずらに、すっかり硬くなってしまって震えている。濡れた感触の乳首は、三蔵の舌に、確かに好物のソースの豊かな味を伝えてくる。まろやかな、酸味があって卵のこくのある風味だ。
「はあ、あああっ」
 舌で舐り、愛するようにすれば、もう敏感な神経が持たないのだろう。背を海老反らせて、八戒がわななく。淫らに蕩ける肌にはかすかな緊張があった。三蔵がそれをなだめるように、右手で背の骨の数を数えるように這いおろされる。
「すげぇ。お前、旨い」
「あ、ああ」
 僕は食べ物じゃありません。そう答えたかった整った唇からは喘ぎ声しかでてこない。屈辱だった、身体が感じて抵抗できないのをいいことに好きなように弄ばれている。
「あう」 
 マヨネーズに塗れた、可憐な乳首を、三蔵の指先がきゅ、とつねった。そっとほんとうに軽く、つままれただけのその行為に、八戒は悶絶してしまった。びりびりとした電撃にも似た快美感が性感帯を、容赦なく焼いてゆく。
「いやらしいな、お前」
 思わず、仰け反った八戒に告げる。黒髪の従者が無意識に屈辱で顔を歪めれば、なだめるようにご主人からの口づけが落ちた。ちゅ、と音を立てて接吻される。そのまま、八戒の小づくりな白い顔中にキスの雨が降った。
「あ……」
 施されるキスは可愛らしかったが、三蔵の指先は、可愛らしくはない。そっと淫らなしぐさで八戒の白い肌を身体を苛んでいる。
「ふ……」
 八戒は耐えた。自分にソースを塗して舐めすする、屈辱的な行為にも耐えようとした。淫らなプレイだ。性具かなにかみたいに、モノ扱いされている。
 しかし、そう思えば思うほど、快感は甘く蕩けるように強かった。
 三蔵の首元にすがりつき、肩へ額を押し付けて、八戒は最高僧様の淫らな手の蹂躙に耐えていた。薄い黄色のクリームを塗した指で、胸の乳首をゆっくりと円を描くように撫でられると、腰から下が蕩けてなにもかもわめき散らしたいような、切羽詰った状態に置かれてしまう。先端からはとろとろと先走りの透明な体液が伝い落ちた。
「すげぇ、べたべただ」
「言わな……で……ああ」
 自分の淫蕩さを指摘されて、八戒の顔がゆがむ。でもどうしようもない。八戒の首の付け根を舐めていた三蔵だったが、そのうちゆっくりとその痩躯をベッドのシーツの上へ押し倒した。
「ああ……」
 そのまま、三蔵が身体の上に覆いかぶさってくる。金の髪がきらきらと舞った。八戒はその髪の中へ手を差し入れた。さらさらとした金色の髪。それに何もかもが覆われる。じきに、ゆっくりとそれは八戒の身体の下へ下へと降りてきた。三蔵がだんだんと身体をさげているのだ。綺麗な線を描く八戒の喉を舌先で舐めながら、その下のしなやかな痩躯へ優美に存在を主張する鎖骨へ舌を走らせている。
「ああっ」
 愛おしさを伝えるように甘く噛んだ情交のあとを、三蔵の舌が癒すように這い降りてゆく。ちりちりとした疼きともどかしい新たな熱がそこから沸き起こり、八戒は思わず身悶えした。
「あ……」
 こり、三蔵の唇で乳首を捕らえた。舐めまわされ、手で揉みしだかれる。八戒は眉根を寄せて顔をしかめた。
「はぁ……ああ」
 とろとろ、と先走りの体液がシーツを濡らしてしまうが、止められない。胸を愛撫され、噛まれ、舐られ、吸われ、舐められて……腰の奥が疼いてしまう。男が欲しくて三蔵が欲しくて疼いて止まらなくなる。ひくん、ひくんと腰がゆらめいてしまう。はしたなく、身体を開き、何もかも三蔵に明け渡して身体の奥の奥まで犯して欲しくなる。
 だんだんと理性が消えてゆく。忘我が近い。なんだか怖かった。八戒は思わず、目を閉じた。自分を抱く相手の男は、本当に一筋縄ではいかない相手だった。翻弄されて、その腕の中で喘ぐしかなくなる。
 三蔵の片手が、八戒の尻たぼをなぞって割り広げるような蠢きをする。そして、足の付け根の肌をなぞり上げ、唇は腹の傷の残る下腹部を這い回る。三蔵の口が離れる度、内出血のあとが八戒の白い肌の上に花びらのように散ってゆく。唾液が銀色の軌跡を描いた。犯され、食べられようとしているのだ。ソースまみれにされて。
「ああ」
 恥ずかしい行為に八戒の目元が染まる。三蔵の腕が、八戒の下穿きを、穿き口を引っ張った。八戒は羞恥に唇を噛み締めながら、腰を浮かせた。すぐさま、強引な手が伸びて、八戒の腰から、脚から下着ごと夜着が抜き取られる。
「もう、こんなに濡れてんのか」
「や、やめ」
 三蔵の低い声が情欲をはらんでいる。八戒は耳まで赤くなった。恥ずかしかった。隠そうとして、三蔵の腕に阻まれる。濡れて、たちあがりかけたそれを……三蔵に握られた。
「あっ」
 余裕のない声がいくらでも出てしまう。そっと握って扱かれる。拷問に近い。しかも、潤滑をよくするために、ソフトビニールの中の液体を塗され、とろとろにされて愛撫された。
「ああ、ああっ」
 八戒がよがる。甘い悲鳴が喉を震わせ、身体が仰け反った。それにかまわず、三蔵の手が縦横無人に動く。上下に扱かれ、八戒はよがり狂った。
「だめ……」
 緑の瞳を潤ませての、必死のお願いを最高僧は無視した。三蔵の手の動きに合わせて、ちゅくちゅくと卑猥な水音が、三蔵の手と八戒のペニスから立った。マヨネーズでよりすべりがよくなっている。八戒は快楽を逃がそうと上半身をよじって震わせ、熱い吐息をいたずらにこぼし続ける。
「あ……! 」
 三蔵の淫らな舌先が、濡れた先端の可憐な孔にまで挿し入れられた。ベルベットのような舌が触れる甘い感触に、今度こそ八戒の眉が苦痛とも快楽ともつかぬ様相でゆがんだ。舌はぺろりと、先端から真珠のようにこぼすものを舐めとり、そのままキャンディーか何かを舐めまわすように絡みついた。
「あああっ」
 腰が快楽で浮いてしまう。揺れてしまうみだらな腰の蠢きを止められない。頬に朱を刷き、八戒が喘ぐ。もう零れ落ちる甘い声はとめようがない。抑えようとしても指の間から漏れてしまう。
「だめ……だめで」
 自分の腰のあたりに伏せられた、三蔵の金の頭に右手を伸ばし、八戒は金の糸でできているようなみごとな髪を手の中に絡め取った。しかし、どうしようもない。わが身に加えられる淫ら事に抵抗したいような、抵抗できず、恥知らずにねだってしまいそうな、惑乱した精神状態に置かれていた。
 ぴちゃ、ぴちゃと三蔵がおいしそうになめすする音。淫靡な音が部屋に響き、八戒の耳朶を犯す。
我慢しようとして、目をつぶれば、三蔵が下肢にくわえる甘い淫らな感覚と、いやらしい音がかえってはっきりしてしまう。
「あああっ」
 先走の体液をこぼす、先端の鈴口に似た割れ目を、三蔵のマヨネーズを舐め取った舌が割り開いた。敏感な箇所にくわえられる淫虐に、八戒がびくんと背を反らす。腰奥が疼いて熱くなってゆく。ぷつ、とこぼれた真珠のような体液は嬲られて幾つも幾つも溢れ出し、止まらなくなってしまった。先端が三蔵の整った口腔に咥えられ、くびれへ、裏筋へねっとりと舌が絡み付く。
 唾液と先走りと、妖しい調味料が混じりあった体液が、八戒の棹を濡らす。そのまま、とろとろと溢れ、艶かしい黒い下生えを濡らし、もっと奥の粘膜や後ろの孔を伝い落ち、そしてその下のシーツを湿らせてゆく。
「あっあっあっ」
 限界が近い。内股で三蔵の金色の髪が擦るように、蠢くと八戒はいまにも達しそうな悲鳴をあげた。しなやかな脚が、がくがくと震えだす。もう、支えてもいられない。
「八戒」
 どこか艶を含んだ、低い声で呼ばれる。尾てい骨の底の底、もっと淫らな神経までぐずぐずにとろけさせるような声だ。腰骨の浮いた、細い腰に三蔵の両腕がかかる。
「や……」
 うつぶせにされた。そのまま腰だけ高くあげさせられる。尻をさしだすような姿勢だ。
「いや……」
 目元を染めて喘ぐ八戒にかまわず、その肉の薄い形のいい尻を、三蔵が両手でわしづかみにした。そのまま、綺麗な尻たぼを左右に開かれる。
「やで……」
 羞恥に、八戒の目元に涙が浮くが、三蔵はとりあわない。隠しておきたい部分が、光りと、空気と
、三蔵の目の前にさらされる。そっとその尻たぼをなだめるような撫でながら、三蔵はその間に顔を埋めた。きゅ、と口を閉ざすお行儀のよい肉の環には触れず、その周囲に舌を這わせる。唾液と、それからマヨネーズを乗せた舌で上から下へ、下から上へと何度も舐めまわす。そのうち、八戒の尻が喘ぎながら震え、びくびくと揺れた。淫靡だ。舌を長く伸ばして、暗く赤い肉の環をつつく。
「ああ……っ」
 びくびくと八戒の身体が、脚が、手が震えた。犬のような格好をとらされている。もう身体は快感で支えられず、上半身はベッドに投げ出している。全身が紅潮した。
「やめて……だめ」
 よりによって調味料などで嬲られる淫らな性奴扱いに、八戒が屈辱で身を震わせる。それでも身体は快楽をたやすく拾いあげてしまう。
 三蔵の舌が浅い入り口を舐めた。ひだのひとつひとつをほぐすように、舐めまわす。疼くような、ひくひくと収縮してしまう感覚が淫らな肉に伝わる。もう、身体が疼いて疼いてしょうがない。
「あっ」
 甘い拷問に近かった。八戒はシーツを指の間接が白くなるほど握り締めた。恥知らずな両手が、八戒の尻を揉んでいる。マヨネーズを乗せた舌で、卑猥に敏感なそこを嬲られる。
「あっ……ぁう……っ」
 ほぐしてもらわなくては、三蔵のを受け入れることなどできないだろう。それは分かっているが、恥ずかしかった。三蔵の人さし指、優美に長い、しかし銃を扱いなれた男の指が、狭間に割りいれられ、もぐりこんでくる。
「く……」
 くぐもった声が漏れた。息を詰めて三蔵の指に耐える。汗の浮いた白い尻へ、三蔵がなだめるようにキスした。
「あ……」
 八戒が息を荒げた。指が増やされてゆく。
 そして、
「いや……あ! 」
 肉の環にヒヤリとした違和感を感じ、それが先ほどの小さいチューブに入ったマヨネーズだと理解するのに、しばらくかかった。三蔵の指が引き抜かれる。
「やめて……さんぞ、さんぞ……ああ」
 三蔵は、八戒の後ろの孔にチューブの口をつけると、中のマヨネーズをゆっくりと注入しだした。
「いやっ……ひっ」
 違和感のある冷たさが、後ろを緊張させる。そのままふたたび、指を埋められた。
「ああ……ああ」
 ぐちゅ、ぐちょ。耳を塞ぎたいような淫靡な音が三蔵に愛撫されている下肢から立った。
「すげぇ、滑りがいい」
 三蔵が後ろからささやく。指を増やしながら、八戒の背へキスを落とした。そのまま、舌を這わせる。
「ああ……」
 四つんばいになって、三蔵の行為に耐える。
「あ、だめ……そこ」
 三蔵の指が内部を押し、回されるうち、八戒の粘膜は三蔵から与えられる快楽を思い出しつつあった。触れられるたびに、その痩躯を揺らして唇を噛み締める。淫らな感覚が走り抜けて、腰の奥の奥、尾てい骨の底の底を蕩かせる。
「ここか」
「や……」
 三蔵が三本に増やした指で、敏感な粘膜のある一箇所を擦りあげる。
「ひっ……」
 前を扱かれるよりも、直接的な刺激に八戒の顔が歪む。思わず、のみこんだ三蔵の指を締め付けて身体を震わせた。思わず、抜かれそうになると下の口も喘がせてきゅっと締め付けてしまう。
「すげぇな」
 低音で囁かれる声にも感じてしまう。
「言わない……でっ」
 三蔵の指に媚び、甘えるようにして粘膜が締め付け絡み付く。強烈な感覚に、八戒が身悶えた。指を出し挿れするたびに、卑猥な音が立った。
「いや……いやで」
 強い刺激に耐え切れず、喘ぐように呻きに近い呟きを繰り返す。呼吸が浅くなり上手く言葉を紡げない。泣き声じみた声は掠れてひどく色っぽかった。
「ああ……あ」
 うつぶせになって尻を高く掲げさせられている格好が、がくがくと揺れる。もう、三蔵の指に耐え切れそうになかった。マヨネーズがより潤滑を良くしているのだろう。ひどく感じてしまう。たっぷり注ぎ込まれたそれが、ちゅくちゅくと指に粘膜に絡み付いて卑猥な音を立てている。
「ひぃっ……」
 身体の震えが小刻みになって、腰が崩れそうになる。そんな身体を腕で支えて、三蔵がささやいた。
「……挿れるぞ。いいな」
 情欲のにじんだ、低音に囁かれ、八戒は震える声で返事をした。
「……はい」
 思いのほか長いまつげがその秀麗な目元で震えている。


 
 三蔵は、その身にまとっていた白い僧衣を今度こそ脱いだ。
 

 
 あっという間にしなやかな腕が伸ばされ、丁寧な仕草で八戒の、上背ばかりあって細い身体を優しく仰向けにする。そのまま、身体の上に三蔵が覆いかぶさってきた。涙の浮かぶ八戒の小さな顔を両手で捉え、そのまなじりを伝い落ちる透明な涙を唇で吸い取った。甘い三蔵の仕草に、八戒の頬が染まる。耳まで赤くなった。
「あ……」
 指と指を、手のひらと手のひらを合わせた。右手は右手と、左手は左手と。三蔵の身体が八戒の間に割りいれられ、その身体で押すようにしてより脚を強引に広く開かされた。三蔵の怒張が、散々解され、注入までされた肉筒の入り口へ息も荒く押し当てられる。散々ほぐされたので、緊張してないはずだったが、この瞬間だけは息を詰めそうになる。再び三蔵が身体を倒し、八戒の唇へ優しくくちづけた。舌先でぺろり、と唇を舐められる。そのまま口を開くよう求められ、おびえる舌を探し当てられ、優しくからめとられた。
「…………! 」
 三蔵がくちづけたまま、身体を進めた。
「ひっ……う」
 重ねられた唇の間から微かな涙のにじむような悲鳴が漏れる。感じてしまう。ずるりと三蔵の硬くて大きなものがはいってくる。淫らな粘膜が震えて喜んでいるのが分かり、八戒は思わず腰を揺らめかせた。
「ああっああ」
 八戒が目を伏せて喘いだ。三蔵が身体を引くと、恥知らずな粘膜が、媚肉がきゅ、きゅっと三蔵を放すまいと締め付けて痙攣するのが自分でも分かったのだ。
「そんなに、いいか」
 ゆっくりと抜き挿しされて、八戒が悲鳴を上げる。三蔵の身体の下で、貫かれて咥えたまま尻を揺らして身体を仰け反らし、卑猥な言葉を口にしてしまう。そんな八戒の姿はいつもの清潔な佇まいとは天と地ほどの差があって、同じ人物かと疑うほどだ。
「あっ……あっ」
 切羽詰まった声。ずるり、と三蔵がぎりぎりまで引き抜き、入り口で遊ぶように、円を描くようにして腰を回しだした。たちまち八戒が三蔵をのみこんだ内股をひくひくと震わせて喘ぐ。
「はぁっ……あっ」
 肉棒を中心にして回されると、よりイイところに三蔵のがあたり、敏感な粘膜が擦り上げられる感覚に八戒は酔った。くちゅ、くちゅ。卑猥な音が接合部から漏れ、クリーム色のマヨネーズがお互いの場所から滴り落ちる。もう、先走りの体液と交じり合って、なにもかもぐちょぐちょだ。
「ここ、擦ると」
 三蔵が囁く。
「お前の、……締まる」
 前立腺のある敏感な粘膜をちょうど穿つように腰を揺らめかせる。八戒の口からひとと呼ぶのもはばかられそうな、甘い蕩けた淫声が漏れた。
「ああ、あああっ……あっ」
 三蔵のを感じると、きゅ、きゅっと内部が締まるのを感じてしまう。食い締めたまま痙攣して、熱い沼のような粘膜で三蔵を逃がすまいと震える淫らな身体。
「尻、動いてるぞ……」
 かわいいなお前、そっと耳元に囁かれる。ぴくん、と肌が震えた。まなじりから、また涙が滴り落ちる。感じすぎてしょうがなかった。
 自然に、三蔵の動きに合わせるようにして腰を上下に左右にふってしまう。より感じる場所に当たって、八戒がよがり狂った。もう、唇は閉じられない。涎が糸を引き、シーツに落ちる。それを三蔵がまた上体を倒して、舌で舐め取った。淫らな仕草だ。
「ひっ」
 三蔵の大きな手が、前に伸ばされた。八戒の身体の上で勃ちあがって揺れる屹立を握り込む。
「さわら……な……で」
 もう理性を手放してしまっている濡れた緑の瞳が、懇願する。感じすぎて身体がおかしくなりそうだった。三蔵がくびれを握ってしごくと、内部を犯している三蔵のをきつくきつく収縮して肉筒が締め上げた。
「ああ、ああっ」
 前から惑乱するような気持ちのいい快楽が三蔵の指で擦られて湧きあがってくる。ねばねばと透明な先走りの体液が糸を引いて、三蔵の指を濡らす。その淫らな行為に、八戒は身体を震わせた。先端に小さく口を開けているそこから、とぷとぷと涙のように、体液をこぼし、亀頭を濡らし、棹を濡らし、三蔵の指を手を濡らしてゆく。
「や……」
 そこにも、またチューブの中身が塗された。三蔵はその黄色いソースごと八戒を握り込んだ。
「ひぎッ」
 悶絶する感触に、八戒が目を剥いた。いつも、三蔵が好んで食べるその料理用のソースは、もはや淫靡なローションに似た役割を果たしていた。ナカを穿ちながら、外をかわいがられる。マヨネーズをまぶされ、遠慮はいらないとばかりに手首のスナップを利かせて、扱きあげられた。
「やぁっ……許してくだ……許してお願い」
 甘い懇願がその唇から漏れる。しかし許してはもらえない。
「ああ……ああもうだめ……ぇ」
 八戒が身を震わせた。ぶるっと生理的な震えが肌の上を走り抜ける。三蔵が、そのくびれを、裏筋を執拗に撫で愛するのももう、限界だった。こらえ性のない、敏感な身体はあっという間に白濁液を吐き出した。
「あああっ」
 達して、逐情の声をあげて、八戒が弛緩する。びくびくと、三蔵を咥えこんだ媚肉がとろけて緩む。もう、身体に力がはいらない。そんなしどけない白い身体を最高僧は抱きつぶすように抱いている。
「んっん……」
 吐精して、こころ持ち頭を下げた、八戒の性器。白い体液がその先端の小さな口からとろとろと伝い落ち、棹へ、そのもっと下、柔らかな黒い恥毛へと滴り落ち、そのうち、尻の方へも回り込んで三蔵と繋がっているところを濡らし滴った。淫らな感触に八戒が甘い喘ぎ声をあげて、脚を突っ張らせる。もう、そのつま先までこれ以上ないほどに感じきり、指先が内側へ折りたたまれ丸くなる。
「あっあっ」
 足の指先まで、丸く折って耐えなければ、狂ってしまいそうな快楽。そんな暴力的な感覚が、身の内を襲い、八戒は喘いだ。
「さんぞ……さんぞ」
 八戒が三蔵の名前を呼ぶ。まるで聖なる詩句のごとく。三蔵がそんな八戒をそっと優しく抱きしめた。
「八戒」
「あ……」
 もう、感じすぎて、意識があるのかどうかもあやしい。その欲情に翳る艶かしい緑の双眸を、三蔵は紫暗の瞳で捉えた。ぺろ、とその舌を伸ばして、どうしてもにじんでしまう八戒の涙を舐め取った。
「八戒」
 大切で仕方ないように、その両腕で抱きしめる。ひくひくと震える粘膜も、淫らな感じやすい身体も、三蔵にとってはどれも好ましく望ましい。たとえ、この下僕がそんな自分を如何に恥じようとも、三蔵は八戒のことを肯定するだろう。
 まっすぐで、傲慢な紫の美しい瞳。それは、八戒のことだけを見つめている。
「あっ……さんぞ……ああ」
 もう、限界が近い。三蔵のかわいい下僕は身も世もないような快楽によがり、狂っている。きゅうきゅうと三蔵をその性悪な粘膜で締め付け、離そうとしない。
「八戒」
 八戒は囁かれて、聴覚からも犯されているに違いない。結合部からは泡がつぶされるような、淫らな音がひっきりなしに立ち、とろとろとした体液ともマヨネーズともつかぬ液体がシーツを濡らしてゆく。
「ああ、ああさんぞ」
 もういちど、その秀麗で整った唇を、下僕のそれへと重ねる。舌で絡めとろうとすれば、ひくん、と身体が震え、粘膜がもっともっとと三蔵をしゃぶりつくす。
「あ…………ぐうっ……ぐっ」
 口を唇で塞いだまま、腰を奥まで挿しいれた。いっそう奥の奥の肉へと繋がる。繋がった場所から快楽が揺らぐように立ち上る。奥深い粘膜にまで、三蔵の肉隗を感じているらしい。愛おしかった。
「あ……!」
 穿たれ、抉られ。そして奥の感じやすい粘膜を蹂躙されて、八戒は甘い吐息を漏らし続ける。いつの間にか、また八戒は犯されたまま前を放ってしまっていた。もうとめどがない。こらえ性のない身体だ。三蔵に抱かれるのがよくてよくてしょうがない。
「ああ、さんぞ、さんぞ」
 背骨に近い、奥の奥を三蔵の怒張で擦られる。その淫靡な感覚にもう、八戒は理性を手放したままだ。
「ああ、ああっさんぞ」
 後生だ、とでもいうかのように、八戒の長い手足が、三蔵の身体を絡め取った。しがみつかれる。なだめるようなキスを繰り返す。
「さんぞ……イッて……お願いさんぞ」
 甘い懇願を、黒髪の男は繰り返している。もう、限界は通り越していた。
「イッていいのか」
 突き入れたまま口づければ、身体の下で朱に身体を染めて、くねらす淫らな八戒の姿が映る。
「来て、さんぞ、来て……」
 正気だったら、言わないだろう、淫らで甘い言葉を、三蔵の下僕は螺子の切れたオルゴールのように呟いている。背を快楽でわななかせ、甘い汗を身にまとい、三蔵に穿たれるままだ。三蔵の体液がこの淫らな男は欲しいのだ。その粘膜に熱いしぶきが欲しいのだ。犯され尽くされたいのだ。なんて淫らな男だろう。
「……っ」
 三蔵は低く呻いた。八戒の媚態に抵抗できなかった。いつも清廉な保父さんというべき優しげな男は、抱けばひどく淫らに変容した。うっとりするほどだ。その色香は最高僧である三蔵をもとりこみ、放しはしない。三蔵が、直線的に八戒の尻を犯し始める。垂直に穿ち、貫く。激しい挿入に八戒が身を仰け反らして悦楽の声を放つ。
「さんぞ……さんぞ……ああ」
「……ッ」 
 とうとう、三蔵はその熱い欲望を、八戒の最奥へと放った。脈拍と同じリズムで数回に分けて吐き出される精液。それを奥へ奥へと擦り付ける。その紫色の美麗な瞳を閉じて、八戒の艶かしい身体を味わっていた。びくんびくんと粘膜が震え、痙攣と弛緩を繰り返して、三蔵のをむちゃくちゃに揉み絞ってくるのを感じる。愛おしい淫らな身体だった。穿って精液を吐き出しながら、八戒の顔と言わず、髪と言わず、首と言わず、胸と言わず、キスの雨を降らせた。最後の一滴も残さず、オスの本能で甘い粘膜へ擦り付けようとする。八戒は奥まで三蔵にいっぱいにされる甘い幸福に満たされ、熱い体液に濡れる粘膜が沸騰するような気がしてひたすらに身悶えた。
 ぐぷ。三蔵の精液でいっぱいになった肉筒が、肉の環の端から泡じみた精液を滴らせている。
「さんぞ……」
 甘い声を放って、三蔵の腕の中で、黒髪の下僕は意識を失った。


「飽きたか」
 ぼそっと呟かれる言葉に、うとうとしかけた八戒は瞬間意識を取り戻した。口元へ遊ぶように這わされていた男っぽい大きな手。銃を扱いなれた節の立った手へ、無意識にそっとくちづける。この幸福が、失われないように、壊れないように、そうっとそっと。
「飽きるわけ……ないじゃないですか」
 八戒は幸福そうに微笑んでいる。

 

 了