ひどい快楽だった。精神まで犯され、陵辱されるかのようなひどい行為だった。いまや、八戒はおぞましい触手二本を同時に受け入れさせられていた。
俗に言う『二本挿し』と同じレベルの行為をされている。ぞろりと、二本の触手がそれぞれ異なる蠢きをしながら、自分の後ろを突き上げるのに八戒は唇を噛み締めて耐えた。
「あぐ……ぐぅッ……」
痙攣して、後ろを締めてしまう。ふたつでもやすやすと受け入れはじめた淫らな躰を嘲笑うかのように化け物は八戒を嬲った。びくびくと躰が跳ねる。
それでも、精路には細い触手が絡みつき、抜けない。肉筒を犯す触手が、卑猥に蠢く。一本が抜くような動きをすると、もう一本が突き上げる。この世のものとも思えぬ快楽に、八戒はよがり狂った。
塞き止められたまま、解放されないペニスが震える。
「あがッ……はぁはぁっ……んッ……」
精嚢が腫れあがり、このまま詰まって壊れるのではないかと思われたそのとき。ようやく、ずるりと細い触手が蠢いた。
「あ……？ 」
八戒の目に、喜色が浮かんだ。鈴口から、尿道から、確かに触手の管が引き抜かれ始めたのだ。
「あ…………ひッ……んんッ」
八戒は眉根を寄せて、その背を焼く快楽に耐えた。引き抜かれる度に激しい快美が湧き起こって悲鳴にも似た嬌声が出てしまう。
沸騰するような快感に腰を震わせた。意味をなさない悲鳴にもにたよがり声を上げつづけながら、その間にも立て続けに達してしまった。淫靡な躰だった。
抜かれてゆく細い管を追いかけるかのように、精嚢に溜まりまくっていた精液は、噴出する先を求めて、尿道へと集中した。
「あ……出るッ……やっと……出せ……る」
八戒が涙を流しながら、はぁはぁと快感に震えて腰をくねらす。鈴口近くまで精液でいっぱいになる感覚に八戒が口元を緩ませる。
ようやく解放されるのだ。
「はや……くっ……ぅ」
二本の触手を尻に咥えさせられたまま、腰をくねらせて、八戒はその時を待ち焦がれた。
しかし、
八戒の希望を嘲笑うかのように、その躰に太い触手が回された。しっかりと押さえつけて動けなくさせられる。
「う……？ 」
ひどい快楽の連続に、理性も何もかも失ってしまっている八戒が力なく首を傾げた。
そのとき。
「―――――――――――――――――！！！！ 」
鈴口まで、あともう少しというところまで、引き抜かれていた管が、なんと逆流するかのように、もう一度、奥へと突き刺さった。
尿道の中をいっぱいにしていた精液があふれて鈴口からだらだらと滲んだ。
声にならない声をあげて八戒はのたうちまわった。勢いよく放出されるはずだった精液が再び押し戻される。ひどい圧力が尿道の中にかかり、ペニスの内壁が悲鳴を上げそうだった。
「――――――――――――ッ！！！！ ――――――――ッ！！！！ 」
絶叫した。躰をうちあげられた海老のようにのたうたせて、化け物に向って懇願した。
「イカせてぇッ……出したいッ……いっぱい出したいッ……なんでも……なんでもする……からぁッ……」
かつては知的に振る舞っていた面影はその姿にはなかった。もう、単なる情欲の奴隷、しもべとなり果てていた。その凄艶な唇が絶望的な言葉を紡ぐ。
「あ……も……殺して……」
死ぬ方が楽だと思わせる快楽の連続に、八戒は啜り泣いていた。そんな姿に憐憫でも湧いたのだろうか。
「あ……！ 」
尿道を逆流するかのように伸ばされていた管から力が抜けた。自然に精液の圧力で外へと押し出されてゆく。
「あ―――ッ！ ああッ！ ああああッ……あ……！！！ 」
とうとう、放出のときが訪れた。もう、我慢させられすぎて、おかしくなりそうだった。びくびくと躰を震わせて、腰を突き出した。
きゅきゅっと後ろの肉筒も連動して締まり、咥えさせられている触手を強く締め付けてしまう。ぶるぶると痙攣すると、八戒は達した。
抜けた触手の管の軌跡を追うかのように、白い精液が吐き出される。放出されたそれは、もう濃く、ところどころ固まり、不透明といってもいいほどの色をしていた。
ひどい快楽に、八戒は舌を半ば突き出して吼えるように喘いだ。
「イイ……イイッ……もッ……ああッ……ん」
だらだらと、塞き止められていた大量の精液が、地面にしたたる。おぞましい触手の何本かが地に這い、それを争うようにして、舐め、吸いあげた。
「あ……ふぅ……ッ」
目元を桜色に染めて、八戒がびくんと跳ねた。その恥ずかしい痴態を愛するかのように、触手が背を這いずりまわる。
八戒は酔ったようになって、その唇を自分の舌で湿すかのように舐め上げた。
「あ、イイッ……もッ……」
八戒を責め苛んでいた、ふたつの触手が同時に後ろから外れた。ぼとぼとと肉筒から、触手の吐き出した体液がこぼれ落ちる。この世のものとも思えぬ、淫靡な光景だった。
「も……腰から下……溶け……そ」
八戒は蕩けるような快美の海にのたうちまわりながら、化け物を振り返った。そのときはっきりと、相手の意図がわかったのだ。
「僕……が」
はぁはぁと喘ぐ。舌で再び上唇を湿した。叫び声を上げつづけたせいか、喉がひどく渇いていた。
「食べたい……ん……です……ね」
それは恐ろしい解だった。理性的な思考の光が八戒の目に浮かんだ。しかしそれは本当に一瞬だった。
「食べて……」
鮮やかな笑みがその秀麗な容貌に浮かぶ。甘い誘惑にも似た言葉がその唇からこぼれた。
「食べて……僕を……」
あろうことか、脚を広げて、八戒は化け物を誘った。もう、禁断の淫楽に狂った躰と精神は壊れて戻らなかった。いつもの清潔で温和な好青年はもう、どこにもいなかった。
「お望みの……まま……ほら……」
触手が、八戒の言葉に応えるかのように巻きついた。脚を自ら開いて誘うその姿に欲情したかのように、あらたな触手を後ろへ挿入し、肉筒を蹂躙する。
「イイ……イイッ……も……イイッ……あ、あ」
ぐぶぐぶと挿入され、穿たれる触手を、自分から腰を回すようにして受け入れた。凄艶な表情を浮かべて、化け物の蹂躙に自ら身をまかせている。
「は……また…………」
何度目から分からない絶頂に脳を白く焼きながら、八戒は意識を手放した。びくんびくんと震えるその肌にあきることなく、化け物の触手は這いまわった。果てもない陵辱の夜は、終りも見えなかった。
最高僧が妖しい気配に誘われるように、宿の外に出たのは、もう夜も更けた頃だった。
八戒の声を聞いた気がして、三蔵は宿の中庭を見渡した。中華的なつくりの宿で、中庭を囲むようにして建物がそびえ立っている。
（どちらだ？ ）
三蔵は思わず闇の中で目を凝らした。風に乗って聞こえた官能的な喘ぎは、夢の中で聞いた甘い声に似ているような気がしたのだ。
「クソ……」
あれは夢だと舌打ちした。せっかく火をつけたはずのマルボロが灰になっている。三蔵はそれを捨てて、足元で捻り消した。
かすかな邪気で、魔天経文が反応しているかのように震えている。落ちつかなかった。放っておくわけにも、もういかなかった。
「……こっちだな」
三蔵は中庭を後にした。裏手にある薄暗い森へとその足を向けた。
捕食者との間の淫らな時間。蜘蛛の巣に捕らえられた美しい蝶もこうした気分を味わうのかもしれない。八戒は凄惨な陵辱を受けていた。
「あぐ……あぐぅッ……」
躰を仰け反らせて、もう何回目か分からない逐情を果たす。びくんびくんとのたうつ躰を触手がきつく締め上げる。達するときに、ぐちゅぐちゅと鳴る後ろの触手を思い切り熱い粘膜の壁で締め付けながら、八戒は躰を震わせる。
「ああ……」
喘ぎ続けて、閉じることを忘れた唇から、唾液が滴る。べたべたに粘液で汚された黒髪が妖しい艶を放って揺れる。
顔といわず、躰といわず、外といわず、中といわず、八戒は全身を化け物の体液で汚され尽くしていた。何度も、そのおぞましい体液を飲まされてもいた。
快感にわななく艶めかしい肌を紅色に染めて、八戒は触手によって宙吊りになっていた。もう、ただでさえ空中浮揚感のある淫らな感覚に浸され、八戒には上も下も消え失せていた。
あるのは、自分の肌を這いまわる触手の繊毛と、その後孔を穿つ太い男根のような触手の感覚だけだった。回すようなグラインドで打ち込まれて、八戒は眉根を寄せてよがった。悦楽の声が幾らでも出てしまう。
化け物が、管を、触手を震わせて――――笑った――――ような気がした。触手の先から細い管が突き出て、それがぐぷぐぷと鳴った。下劣な嘲りのようにそれは響いた。
その時だった。
銃声が響いた。
おぞましい触手が痙攣したように何本か震えて跳ね回る。銀の筒先から硝煙が立ち昇り、闇に散った。銀の弾が化け物に撃ちこまれたのだ。
三蔵だった。
「こいつは……」
あまりの光景に、さすがの鬼畜坊主も顔色を変えた。
それは、形容し難い化け物だった。
蒼白い大木にも似た形をしていて、その幹のような胴から何本ものツルのような触手を生やしている。無数にそれは分岐して分かれ、ざわめいていた。
全体に粘着質のゼリーにも似たどろどろしたものを纏っている。おぞましい、ツルを無数に生やしたイソギンチャクといったところだった。およそ、地球上のどんな生き物とも違った。
しかも、そいつは大事そうに、よりにもよって八戒を触手で巻き上げ、宙吊りにしてとらえていた。
立て続けに三蔵は撃った。躰の芯になんともいえない怒りの感情が湧き起こった。
三蔵の攻撃で、しばらくびちびちとのたうっていた触手は、そのうち、撃たれたところから、ぽきりと折れた。
そして、
恐るべきことに、その折れた場所からまた新しい腕――触手を生やしたのである。
「げぇ……」
その醜い、おぞましい様子に、三蔵が思わず口を抑えた。
とかげの尻尾切りを連想させた。しかも、プラナリアなどの原生動物や環形動物もこうは容易くはいかないだろうというような強烈な再生力を化け物は持っていた。
びちびちとした不気味な触手の先から、管を出し、ぐぷぐぷとあざ笑うような音を出した。
（……ぜ）
最初は、夜の風の音かと思った。
「……何？ 」
三蔵は、突然頭の中に響いた声に気がつき、目を見開いた。
（何故、邪魔をする。玄奘三蔵）
それは陰々とした思念だった。直接脳に働きかけるようにして響いた。どんな言語とも違った。あえていうなら、思念波としか呼びようがなかった。
「あ……ッ」
貫かれる速度がゆっくりになって、触手で犯されている八戒が腰をくねらせている。その様子をいままで無意識に遮断していた最高僧だったが、その淫らな姿を直視せざるを得なくなって顔色を変えた。
それは、男の腰を疼かせる卑猥な姿だった。官能的などという上品な言葉などではとても言い表せない淫猥さだった。直接的に人の劣情に訴えかけるいやらしい姿だ。
（お前の望みをかなえてやっているのではないか）
おぞましい化け物は、三蔵の脳の中にそう語りかけてきた。
「何……」
思わず、紫暗の瞳を細めて三蔵は、化け物を睨みつけた。
（ずっと、この供の者をこうやって扱いたかったのだろうが、玄奘三蔵とやら）
どうして、この化け物が自分の名前を知っているのか。三蔵は黙って化け物を睨みながら次を装弾した。
恐らく、八戒を犯しながら、自分の存在を知ったに違いない。
魂が抜けて、肉人形にまで堕された八戒は、その躰も精神も脳も何もかもを陵辱されてしまったのに違いなかった。
（この気持ちのいい孔に）
化け物は、自分の触手が出入りしている秘所をことさら見せびらかすかのように、八戒の躰を広げさせた。八戒はもう、狂ってしまっていて、三蔵のことを認識していないようだった。
触手は、八戒のピンク色の粘膜を無理やり広げるようにして、穿っていた。化け物の触手の先にある細い管が揃ったように不気味に鳴った。呼吸音なのかもしれないが、それは妙に気に障る音だった。
（お前も自分をここに挿れたいのだろうが）
三蔵が顔色を変えた。
自分の隠しておきたい気持ちを、いや、自分でも自覚のない気持ちを下劣なやり方で剥き出しにされた気がした。繊細で隠しておきたい、秘めた気持ちを下劣な手で暴き立てられたのだ。
三蔵の顔に怒りの表情が浮かんだ。眉をつりあげ、口を歪める。金の髪が夜風に散って光った。
「……てめぇと一緒にすんじゃねぇ。このバケモンが」
三蔵は銃を投げ捨てた。怒りが身を焼いて、天地を焦がすようだった。その肩にかかった魔天経文が闇の中でひときわ光る。聖なる光りを帯びて内側から発光するかのように輝いた。
（……待て！ 玄奘三……蔵）
化け物は、いままで見たことも、聞いたことも、味わったこともない強大な力を感じて、慌てたように暴れた。醜く、おぞましいとしか形容のしようのない無数の触手がざわざわと蠢く。
三蔵がその様子に構わず、印を結び、経文を唱えた。
果たして。
凶暴なまでの聖なる光りの渦と、経文の波動に追われるようにして、化け物は消えた。
「……八戒！ 」
化け物が消えた後に、粘液を滴らせて、八戒は転がっていた。服は剥ぎ取られて裂かれ、全身に化け物の体液を塗りつけられて、息も荒く仰向けに横たわっている。
「八戒！ 」
三蔵が呼びかけた。
「……さん……ぞ？ 」
八戒の唇が一瞬蠢いた。しかし、
「八戒！ 」
そのまま、八戒は三蔵の腕の中で気を失った。
「あいつは、僕を喰う気でした」
次の日、宿のベッドの上で八戒は訥々と喋った。背をまるめて、膝を抱えている。タオル地でできた毛布を、上までたぐりよせて、躰を包んでいた。
「僕を誘い出して……食べる気だったんです」
手が、きつく毛布をつかむ。おぞましさと、犯された惨めさで八戒の精神は傷を負っていた。
「いつも……村の生贄の娘さんたちも……あんなふうに……食べられていたんでしょう」
そうだった。化け物は、生贄を恐怖に狂わせて食べるのではなく、生きながらに恍惚境に投げ入れ、犯しながら貪り喰っていたのだった。
その快楽物質でいっぱいになった脳に穴をあけ、その全身に生え揃ったおぞましい触手で啜り、骨も残さず食べることを好んでいたのである。
八戒の場合も、化け物はそうするつもりだった。そのしどけない肉体をあじわい、快楽につき落として抵抗を封じ、自ら躰を開いて擦り寄ってくるのを待ったのだ。
恐怖よりも、化け物は快楽という名の調味料で獲物に味付けすることを好んだのだ。
「その方が、……美味しくいただけるんでしょうね」
八戒は自嘲するかのように顔を歪めた。自分の痴態を思い起こすと死んでしまいたいほどだった。
拷問のような快楽の連続に耐え切れず、尻を振って屈辱的な言葉を幾つもその舌に上らせてしまったのだ。八戒の誇りや自尊心はずたずたになっていた。
「僕を軽蔑するでしょう。三蔵」
毛布をつかんだ八戒の手が震えた。なにしろ、あんな恥ずべきところをあますことなく、三蔵に見られてしまったのだ。
「八戒」
三蔵はその顔を寄せて覗き込んだ。心配していた。この男にしては珍しくも神妙な表情だった。
八戒の視界いっぱいに、整った三蔵の美貌が大写しになる。一瞬、八戒はその紫色の瞳にみとれかけた。
「てめぇのせいじゃねぇ」
三蔵は、震える八戒の手を、包みこむようにして握った。優しい手だった。
「忘れるんだ。こんなことはもう忘れ」
しかし。
「……出て行って下さい」
八戒は唇まで震わせて、拒絶の言葉を舌に上らせた。
「出て行って下さい！ 僕に触らないで！ 」
その言葉に、最高僧が目を大きく見開いた。思いもよらぬ言葉だった。
瞬間、
化け物の嘲るような思念が脳裏に甦った。
（お前の望みをかなえてやっているのではないか）
（お前も自分をここに挿れたいのだろうが）
八戒はあのとき、我を失って何もかも分からなくなっているように見えたが、ひょっとしたら、三蔵と化け物の間で交わされた言葉を実は理解していたのかもしれない。
「……分かった」
三蔵は一瞬激情にかられそうだった自分を押しとどめて、なんとか言葉を継いだ。とんでもない出来事で、八戒は気が立っているのに違いなかった。
「しばらく、休め」
八戒に触れていた手をそっと離した。外されると、ぴく、と八戒の指が蠢いた。
三蔵は、振り返りもせずに、ドアを開け、部屋を後にした。そうするしかなかった。金の髪が残像のように揺れ、消えた。ドアの閉まる味気なくも乾いた音が八戒の耳に届いた。
とたんに静かになった部屋に、備え付けられた時計の針の音だけが耳障りに響く。
「ふっ……」
八戒はいままで、塞き止めていた息を吐いた。
「っはぁ……」
そして、
三蔵が触れた自分の手へ唇を寄せると、激しく舐めだした。
卑猥な仕草だった。獣のようだった。男に抱かれたくてしょうがないとその全身で訴えているような仕草だった。
「ああッ……さんぞッ……さんぞ」
はぁはぁと、ベッドの上で身悶えしだした。甘い快楽の表情を浮かべて、三蔵の触れた手を自分で舐めている。
三蔵の皮膚の感触、体温の温かさを余さず舌で掬い取ろうとでもいうように舌を這わせていた。淫靡だった。
「んッ……も」
官能的な表情を浮かべて、眉を寄せ三蔵の消えたドアへせつなげな視線を投げる。
「も……僕は……」
甘い甘い疼きが、八戒の腰を焼いた。
そう。
化け物の淫らな体液は、媚薬だった。
その効果は、化け物が去った今も八戒の身のうちにとどまり、続いていた。
男が欲しくて欲しくて――――我慢できない。
もし、三蔵があのまま、部屋にとどまり続けていたら、八戒は身も世もなく、抱いてくれと縋ってしまっただろう。自分から躰を開いて誘惑してしまったに違いない。
それはいやだった。
あんな化け物に陵辱されている姿を見られたのに、その上、こんな淫らな躰になってしまったのを知られてしまうなんて嫌だった。
そんなことになったら、八戒は今度こそ自死を選ぶだろう。
なんとか、三蔵に知られずに自分だけで処理しようと、八戒は自らの躰に手を這わせた。悩ましげな熱い吐息がその唇から漏れる。
「さん……ぞ」
化け物の触手の感覚を思い起こし、そして、三蔵の熱い怒張を想像しながら、後ろに指を這わせた。
「あ……ぐ……ぅ」
躰を震わせて身悶える。どうせ、自分の細い指や手などでは満足できないに決まっている。
それでも、
八戒は自分で自分をなんとか慰めようと足掻いていた。
「抱いて……三蔵ッ……いっぱい……抱いてぇ……」
ひとり、熱い躰をもてあましながら、ベッドの上をのたうちまわった。苦しかった。
そんな八戒のことを、最高僧は知らない。
自覚のない気持ちを暴かれたのは――――三蔵ばかりではないようだ。
あの暗い森は、ひとの心の中の秘密に似ている。
了